第21回
〈ライブ観客動員ランキング〉に思うこと。笹峯愛作・演出の〈ミルフィーユ〉は味わい深い芝居だった!
2016/02/11
先日LiveFans より〈2015年ライブ観客動員ランキング〉が発表された。
このランキングを見ていて思ったことは、〈総合ランキング〉の1位・Mr.Children、2位・嵐、3位・三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEは納得だった、ということ。納得だったのは〈ジャンル〉別でも、〈J-POP・ロック〉の1位・Mr.Children、〈男性アイドル〉の1位・嵐、〈女性アイドル〉の1位・ももいろクローバーZ、〈海外アーティスト〉の1位・One Direction、〈K-POP〉の1位・東方神起だった。このあたりは「さもありなん」と言ったところだ。
しかしながら、「これはどうしてなぜ?」と思わせるのもふたつほどあった。まずひとつは〈フォーク・ニューミュージック〉部門だが、1位はさだまさし、2位・松山千春はわかるが、3位に八神純子が入っていたことだ。
さだ、千春は毎年何十本もコンサートを行なっているので予測はつくが、八神純子が年間に68本ものコンサートを行なっていて、しかも57832人も観客を動員しているとは驚きである。ロサンゼルス在住の八神が、さだの64本、千春の57本を抑えて年間に68本ものコンサートを行なっていたとは思いもしなかった。しかもコンサート1本あたりの動員力は850人と安定している。つまり、それだけ支持されているということだ。
八神のコンサートについては前回のコラムで書いたので参照していただくとして、いずれにしても八神は現在“旬”のアーティストで新鮮に受け止められているからこそ、たくさんの人たちに興味を持たれているのだろう。その意味では、ぜひ一度生で見てほしいものである。
もうひとつは〈演歌〉部門の1位がなんと福田こうへい、だということ。〈演歌〉界のプリンス・氷川きよしを抑えての1位は正直言ってびっくりしてしまった。しかも公演数が圧倒的に多い。氷川の107本に対して、福田は150本。これだけコンサートができるということはそれだけ安定した実力と人気を持っているということだろう。
3位の島津亜矢にも注目だ。島津は演歌歌手としては中堅どころだが、実力の程は折り紙付きだ。しかも、昨今は「帰らんちゃよか」が注目されている。去年の年末の〈NHK紅白歌合戦〉でこの歌を歌って以来、が然人気を呼んでいるからだ。子を想う親の思いを熊本弁で歌い切る島津の圧倒的な歌唱に脱帽である。
話は突然変わるが、今回は演劇の話をしよう。
2月5日(金)、東京は下北沢OFF・OFFシアターに〈ミルフィーユ〉という芝居を見に行ってきた。〈aibook produce #01〉と題されたこの〈ミルフィーユ〉の作・演出家である笹峯愛さんから招待を受けたからだ。
1月27日、私のスマホに1通のメールが入った。
「ご無沙汰しております。ソロプロデュースの舞台のご案内です。宜しければ、ご連絡ください。ご招待させて頂きます。笹峯愛」
メールを読んで、笹峯愛さんがなぜ芝居なんかやっているんだろう?と思った。私が知っている笹峯さんは「笹峯愛ちゃん」である。
彼女は1993年にTBS系テレビ・ドラマ〈赤い迷宮〉でデビューした。当時、彼女は15歳だった。94年には「ひとりぼっちのBirthday」で歌手デビューもした。つまり彼女は女優、歌手であり、またTBS系〈王様のブランチ〉のレポーターとしても活躍していたのでタレントでもあった。言ってみれば、笹峯愛はアイドルでもあった、ということだ。
デビューして間もない頃、約2年間ほど私は彼女とラジオ番組を一緒にしていたことがあった。つまり、彼女は私の番組のアシスタントを務めていたのである。そんなこともあってか、笹峯愛さんは、私にとっては10代の女性アイドル「笹峯愛ちゃん」というイメージでしかなかった。
そんな愛ちゃんがいつの間にか〈作・演出家〉になっていたとは?「どうしてまた?」そんなふうに思うと、ぜひ行って久しぶりに彼女に会いたいし、芝居も見てみたい、と思ったのが正直な気持ちである。
笹峯愛さん曰く、舞台の”あらすじ”は以下の通り。
〈東北の海沿いで漁師を営む浩市。震災から4年経ち、浩市の妻・幸子は体調を崩し入院していた。しかし、浩市は幸子のお見舞いにも行かない。妹たちは、そんな浩市に腹を立てるのだが……小さな町で思い出を積み重ねる家族のお話。〉
登場人物は6人だけ。漁師をしている内村浩市(中野英樹)が主人公。その妻が幸子。幸子は入院しているという設定なので姿は見せない。浩市の実妹が小池真美(菊池美里)。幸子の実妹で浩市の義理の妹となるのが高橋恭子(もたい陽子)。恭子のつれあいが高橋誠(小磯勝弥)。浩市の幼馴染で親友、しかもプロ野球選手となって活躍した有名人が藤原仁(成田浬)。仁のマネージャーが佐々木圭(村田綾)。
この6人が織りなす物語が〈ミルフィーユ〉だが、この芝居のポイントは大震災で全てを失くしてしまった主人公の浩市が、ほとんどの人がいなくなってしまった故郷を離れることなく、なぜそこにとどまって漁師を続けているのか?ということ。また、実妹、義妹の説得にも応じないで妻・幸子の見舞いになぜ行かないのか?ということ。そんな浩市の心の葛藤が見事なまでに描かれていて、深く考えさせられる作品となっている。この芝居を見終えた後、私は脚本を読んでみたいと思った。つまり、それほど内容が充実していたということだ。むろん6人の役者の演技のコラボレーションも見事だった。
「脚本が良かった。見に来て良かった」
そう告げて、私は劇場を後にした。私の知っている15歳の〈笹峯愛ちゃん〉は37歳の立派な“作・演出家”の〈笹峯愛さん〉に成長していた。これからも頑張れ!とエールを送りたい。
(文/富澤一誠)
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