第23回
<オールナイトニッポンALIVE>、見て良かった、どころか、見て得をした素晴らしいイベントだった!
2016/03/10
音楽評論家という仕事柄、毎月コンサートの招待状がたくさん送られてくる。うれしいかぎりだが、物理的に全部は行けないので必然的に選んで行くことになる。そんなとき、「これは絶対に行かなければ……」と思うことがある。これを見逃すともう2度と見れないし、見ておかないとあとあと見ていないことが仕事にマイナスになることがある。
そんなふうに思わせるコンサートはそうざらにあるわけではないが、今回はあった。
それは3月1日(火)、日本武道館で行われた<ニッポン放送「HAPPY FM93」開局記念&フジパシフィックミュージック創立50周年記念コンサート オールナイトニッポンALIVE~ヒットこそすべて~>だった。
このイベントの主旨は、音楽出版社の<株式会社フジパシフィックミュージック>の創立50周年を祝ってのものである。フジパシフィックミュージック(略してフジパ)が創立されたのは、ニッポン放送の子会社として株式会社パシフィック音楽出版(PMP)がスタートした1966年3月に遡る。JASRACに登録された115番目の音楽出版社だった、という。産声をあげたときは親会社のニッポン放送に間借りという状態だったが、1985年にPMPは株式会社フジ音楽出版と合併してフジパシフィックミュージックとなり、現在では音楽出版社のリーディング・カンパニーとして音楽業界を牽引する立場にある。
そんなフジパが躍進するきっかけとなったのは、1967年暮れに大ヒットしたザ・フォーク・クルセダーズ(以下フォークル)の「帰って来たヨッパライ」の原盤の権利を獲得したことだった。
フォークルの自主製作アルバム「ハレンチ/ザ・フォーク・クルセダーズ」は300枚作られたが、無残にも200枚が売れ残ってしまった。プレーヤー兼マネージャーだった北山修は「制作費の23万円が回収できない。なんとかしなければ」と思い、ラジオ局に持ち込んでみた。すると反応があった。ラジオ関西の高梨美津子ディレクターが、1967年11月5日に<若さでアタック>という番組で、「帰って来たヨッパライ」をオンエアしたのだ。その直後からすごい反響で曲に電話やハガキが殺到した。
その反響に目をつけたのが、同じラジオ関西の西内隆ディレクターである。彼はさっそく11月8日の<電話リクエスト>で流した。するとあっという間に反響を呼び、翌週にはリクエストで第2位、翌々週にはついにリクエストのトップになってしまった。
以降、独走は続く。その結果、「帰って来たヨッパライ」は関西地区で大ヒットとなったのだ。その噂はいち早く東京にも伝わり、日本楽器、山野楽器には「レコードはないか」という問い合わせが数多く寄せられ、ニッポン放送の高崎一郎プロデューサーが、自身がパーソナリティーを務める<オールナイトニッポン>で取り上げたところ、全国的に爆発的な人気を呼ぶことになる。そして、レコード会社間で前代未聞のすさまじいフォークル争奪戦が展開されたのだった。
「帰って来たヨッパライ」」は、67年12月25日に東芝レコードから発売された。オンエアから2カ月目というスピーディーさだ。結果として、「帰って来たヨッパライ」は180万枚という空前のレコード・セールスを樹立した。それに伴ってラジオ、テレビ、新聞、雑誌などあらゆるマスコミが彼らを取り上げた。フォークルは音楽界のみならず、社会にも大きな衝撃を与えることになる。こうしてフォークルと「帰って来たヨッパライ」はいつしか“社会現象”にまでなってしまったのである。
実はフォークルの「帰って来たヨッパライ」の原盤をはじめとする元の権利をいち早く押さえたのがPMPだったのである。つまり、「これはいける」といち早く判断をして権利を取りに行った“目利き”こそPMPの真髄だ、ということだ。
若者たちに圧倒的な支持を得ていたニッポン放送の深夜番組<オールナイトニッポン>とPMPの“目利きプロジェクト”が両輪となったからこそ、フジパはいつの時代にもヒット曲を出すことができたのである。そんなふうにしてフジパが生み出したヒット曲は枚挙にいとまがない。
当日はそんなヒット曲の中から厳選された曲とアーティストたちが出演した。これはフジパの歴史と同時に、フォーク、ニューミュージック、ロック、Jポップの歴史でもある。「これを見ないで何を見るのか……」と思った人はたくさんいるはずだ。だからこそ、武道館があっという間に埋まってしまったのだ。フジパゆかりのアーティストが想い出の名曲を歌う。これだけで、ミュージック・シーンの歴史を紐解いているようだった。見て良かった、どころか、見て得をした素晴らしいイベントだった。
ちなみに、私が目撃したパフォーマンスは以下の通りである。
「帰って来たヨッパライ/きたやまおさむ/坂崎幸之助」
「春夏秋冬/泉谷しげる」
「スモーキン・ブギ/宇崎竜童」
「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ/宇崎竜童」
「僕の贈りもの/小田和正」
「ランナウェイ/シャネルズ」
「め組のひと/ラッツ&スター」
「ガラス越しに消えた夏/鈴木雅之」
「ドラマティック・レイン/稲垣潤一」
「う・ふ・ふ・ふ/EPO」
「部屋とYシャツと私/平松愛理」
「空とぶ・うららか・サイダー/坂崎幸之助&うららかSISTERS」
「バチェラー・ガール/稲垣潤一」
「冬のリヴィエラ/鈴木雅之」
「TRUE LOVE/藤井フミヤ」
「バンザイ~好きでよかった~/ウルフルズ」
「ガッツだぜ!!/ウルフルズ」
「Beautiful/Superfly」
「愛をこめて花束を/Superfly」
「白い色は恋人の色/坂崎幸之助/EPO/平松愛理」
「コブのない駱駝/きたやまおさむ/坂崎幸之助」
「悲しくてやりきれない/きたやまおさむ/坂崎幸之助」
「あの素晴しい愛をもう一度/ALL CAST」
セットリストとアーティスト名を見て、自由にイメージを膨らませてください。脳裏のスクリーンにあなただけのコンサートができあがるはずです。
(文/富澤一誠)
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