第28回
生き方も歌もストレートの松山千春!今が旬な存在の山下久美子!
2016/05/26
★デビュー40周年の松山千春!
<デビュー40周年記念コンサート・ツアー 松山千春の系譜>を5月12日(木)、東京国際フォーラム ホールAで見た。
このコンサートを見ているうちに、私の想いははるか彼方へフラッシュ・バックしていった。
話は36年程前に遡る。真冬の1月、取材を終えて私は松山千春の運転で北海道足寄町の実家を後にして、一路札幌に向かっていた。運悪く狩勝峠にさしかかったとき雪が降り出し、その雪はいつの間にか吹雪に変わっていた。
狩勝峠の雪は深く、路面は凍っていた。視界にダンプカーのライトが入って、通り過ぎたなと思った、そのとき突然、視界が雪で真っ白になりとぎれた。それまで平静だった千春も、さすがにブレーキを踏んで車を停止させた。目の前は雪で真っ白で、何も見えなかった。
これで終わりか、と私は思った。だが、ほんの数秒後、千春は何事もなかったかのような顔をして、雪路をなんと60キロでぶっ飛ばしていた。
「今、怖かったでしょう。死ぬかと思った?でもね、これが北海道の自然なんだよ。俺だって怖いよ。でも、怖がっていちゃ、何もできないのが北海道なんだ。足寄から札幌や富良野に出る場合、この峠を越えるしかない。だから、いくら怖くても行かなければならないんだ。それが北海道で生まれた者の宿命なんだ」
そんなことを言いながら、平然と車を飛ばしている千春を見て、「こいつはどういう男なんだ」と私は思った。大自然の厳しさに身をおいて、初めて私にはわかった。千春の歌も生き方もすべて“ストレート”だということが。
そんな千春が小学校6年生のときに強烈なフォーク体験をする。
「足寄公民館で岡林信康さんのコンサートがあったんだ。見に行ってびっくりしたね。生コンサート自体が初めてだったし、それまで俺が聴いていた歌謡曲とは異質な何か熱いものを感じた。正直言って最初は、何だこれ?と思った。どれを聴いても世相を皮肉っているし、恋愛を歌っても底に人生観のようなものが流れていた。歌を聴いて自分なりに恋愛や生き方について考えたのは、あれが最初だった」
足寄高校に入ると、加川良の「伝道」という歌に出会う。この歌によって千春は完全にフォークにめざめる。高校1年のときに学園祭に飛び入りで出て、2年の夏休みにはアルバイトをしてギターを手に入れ、歌で人を感動させることを知った。そして1977年1月25日、「旅立ち」でデビュー。翌78年、「季節の中で」の大ヒットで不動の地位を得る。それ以降も、千春は北海道を離れようとはしない。
「生活して、その中から自然と生まれてくるものこそ、本当の歌だと思っているからなんだ」
千春は現在もそれを実践し続けている。だからこそ、今でも千春の歌も生き方もすべてストレートなのだ。
ふっと我に返ったとき、アンコールで「旅立ち」を歌う千春がいた。あの頃の“志”を忘れずにいつまでもおのれの生き方を貫いているかぎり、これからも千春の歌は不滅である、と私は確信した。フォークの従軍記者としてこれからも千春に同行して、この目で見、この耳で聴き、この心で感じたことをレポートし続けようと思う。
★デビュー35周年の山下久美子!
数年前から私は<Age Free Music>を提唱している。<演歌・歌謡曲>でもない。<Jポップ>でもない。良質な“大人の音楽”を<Age Free Music>と名づけて、大人が聴ける音楽を発掘しては推奨している。
そんな<Age Free Music>にふさわしいアーティストが山下久美子であることを最近私は発見した。
だからこそ、私はパーソナリティーを担当しているFM番組<Age Free Music~大人の音楽>の公開録音にゲスト出演してもらって、<ミニライブ>をしてもらったのだ。彼女は「宝石」「バスルームから愛をこめて」「シャンプー」「赤道小町ドキッ」「こっちをお向きよソフィア」などを歌ってくれたが、正直言って、これぞ私が今求めている<大人の音楽>だと思った。だから、ライブが終わった後、彼女に「これぞ私が求めているAge Free Musicです」と称賛したのである。
そんなこともあって、5月14日(土)にMt. RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREでの<35th Anniversary LOVE YOU! LIVE! with Friends>に行ってみた。
会場は満員で、客席のテンションは初めから高かった。しかも、オープニング曲は、いきなり大ヒット曲の「赤道小町ドキッ」で、これを機に全盛期の彼女のライブが蘇った感じだった。
<胸キュン娘>が82年夏、「赤道小町ドキッ」のヒットによって大きくクローズアップされた。コンサートでは所狭しと動き回り、興奮で観客を総立ちにさせてしまう。そんなところから生まれた<総立ちの久美子>というキャッチフレーズと共に、彼女は時代を象徴するスターとなったのだ。それから山あり谷ありの音楽人生を乗り越えて、彼女は今35周年を迎えることができたのである。
3月30日に発売されたアルバム「山下久美子オール・タイム・ベスト Din-Don-Dan」(3枚組)には、ヒット曲や代表曲の他に新曲が2曲収録されているが、現在の山下久美子が素のままに表現されている。
「これからはできることを楽しく一生懸命やろうって感じです。すごく楽なテンションで向き合いながら、心から微笑むような感じで歌っていこうと思います」
デビューして35年というキャリアを積んだからこそたどり着ける境地かもしれない。「赤道小町ドキッ」があの時代に必要とされたからヒットしたように、今の時代は良質な“大人の音楽”を必要としている。そんな時代に最も“旬”な存在が山下久美子かもしれない。
久しぶりに彼女のコンサートを見て、私にはそう思えて仕方がない。<Age Free Music>にとって大切なアーティストである。
(文/富澤一誠)
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