第32回
<稲垣潤一Billboard Live>は彼の本当の魅力が凝縮された特別なコンサートだった!
2016/07/28
今回いただいた招待状の中にもそんな評論家冥利につきるものがあった。そこにはこんな招待状が入っていた。
<このたび、稲垣潤一がファンの間で人気の高いデビューから3枚目までのオリジナル・アルバムだけで選曲される構成のライブ『IGNITION TIME 2016 SUMMER TOUR』の東京公演を7月12日(火)・13日(水)Billboard Live Tokyoにて開催する運びとなりました。皆様ご多忙とは存じますが、お時間がございましたらご来場いただきたくご案内申し上げます。>
これを読んですぐに「行ってみたい」と思った。なぜなら、すごくいい企画のコンサートだな、と感心したからだ。
稲垣潤一は1982年1月に「雨のリグレット」でデビューした。同年年末から83年の早春にかけて第3弾シングル「ドラマティック・レイン」が大ヒットしてスターダムにのしあがった。このとき、彼は29歳。本格的にプロをめざしてから11年目の遅咲きだった。
早いもので、それからもう34年という年月が経ったが、彼は現在もなお第一線で活動を続けている。人気シリーズ「男と女」は5枚もリリースされ続けているし、Jポップのヒットナンバーをリメークして、女性ボーカリストとデュエットで歌う、というコンセプトのこのシリーズの成功で、稲垣潤一は現在<デュエットの帝王>と呼ばれているほどだ。つまり、彼は今もなお第一線の現役アーティストということ。
もちろん、新作を引っ提げてのコンサートは定期的に行なっている。その意味では、ふだんのコンサートもいつも興味深いということだ。
しかしながら、そんな中においても、今度のBillboard Liveは特別だった。普段の稲垣のコンサートもいいが、今回のはやはり特別だと思えたからだ。
稲垣潤一は29歳という遅咲きのデビューだったが、彼には特別なボーカル力がある。シンガー・ソングライターではないが、シンガーでありながら<アーティスト>の極みに立ってしまったのだ。
メジャー・デビューするまで、彼はバンドを組んで“ハコバン”のドラマー兼ボーカルとしてセミプロ的に活動していた。歌うのは洋楽のコピーばかりだった。つまり、彼は日本語の歌をほとんど歌ってはいないということ。デビューにあたって、これはオリジナル曲を歌うのにマイナスであると同時にプラスにも働くことになった。
彼は洋楽しか歌っていなかったので、日本語をリズムに乗せて歌うときに、英語を歌うようにして歌った。結果的にこの唱法が、日本語なのに英語に聞こえてくるという、彼独特のオリジナリティーを生んだのだ。
初めて彼のオリジナル曲を聴いたとき、私はこれは洋楽だと思った。日本語のポップスなのに洋楽ふうに聴こえてくる、私流に言えば<ジャパニーズ洋楽>だったのである。
この<ジャパニーズ洋楽>を完成させていくプロセスが、稲垣のデビューから、1枚目、2枚目、そして3枚目のアルバムを制作する期間だったのだ。
1982年7月21日にリリースされたファースト・アルバム「246:3AM」は、稲垣の独特なボーカルを生かすために、作詞家、作曲家、編曲家が知恵を絞った、壮大なチャレンジだと言っていいだろう。おそらくここでは成功とは言えないまでも手ごたえはあったということだろう。
続く83年2月1日リリースのセカンド・アルバム「SHYLIGHTS」は、ファーストのチャレンジから、やはり曲が大切だということを悟り、アルバム全曲が“いい曲”だった。そしてそれを稲垣が丁寧に歌いこんで、稲垣流のポップスを作り出したのだ。
今でも私はこのアルバムはいい曲ばかりの素晴らしい作品だと思っている。そんな中から「ドラマティック・レイン」が生まれ、これが大ヒットすることによって、稲垣のチャレンジは成功したのである。
83年9月1日リリースのサード・アルバム「J.I.」は、「ドラマティック・レイン」の成功の上に立って、稲垣が自信を持って<ジャパニーズ洋楽>ともいうべき彼独自の“稲垣流ポップス”の世界を確立したからこそ、「J.I.」というアルバム・タイトルを付けたのである。
だからこそ稲垣は、このコンサートではあえて普段は取り上げられないそんな特別な存在の曲を選曲して歌ったのだ。「日暮山」をはじめとして、CDでしか聴けないものをライブであえて共有することによって、お互いに“原点”を確かめあったのだ。その意味では、今度のコンサートは稲垣とファンにとって、“あの頃”の<ドキュメンタリー>なのである。
温故知新ではないが、自分の“原点”を確認して、また前進することが大切なのかもしれない。「行って良かった」と思える、本当に素晴らしいコンサートだった。
(文/富澤一誠)
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