泉谷しげる初の配信ライブをレポート "生"の醍醐味を知り尽くす男が画面の向こうから届けたものは

2020/06/17
泉谷しげる 撮影=Taku Fujii

『泉谷しげる 初配信ライブ“コロナのばかやろー!”』  2020.6.11  eplus LIVING ROOM CAFE&DINING

「コロナのばかやろーのせいで、ライブをやるヤツが職を失ってしまった。だからオレたちはスタッフのために仕事を作ったんだ。みなさんの応援がスタッフ達、イベントスタッフ達のお給金になります。このあり方をこれからも増やしていきたいと思っています。ひとえに今日の私の腕にかかっています」

歌の途中でのこんな言葉からも、この日のライブに対する泉谷しげるの使命感が伝わってきた。生のライブの醍醐味を熟知している彼があえて配信ライブに挑んだのは、ライブに従事する人々の力になりたいから、そしてもうひとつは無観客という状態でどれほどのライブができるのか、ミュージシャンとしての新たなる挑戦といった意味もあったに違いない。

「画面のみなさん、最前列へようこそ」という言葉に続いて、泉谷しげるがギターをかき鳴らし、雄叫びをあげている。オープニングナンバーは「紅の翼」。自らを、そしてカメラの向こうの観客を鼓舞するような熱い歌と演奏だ。歌からもギターのカッティングからも気迫が伝わってくる。だが勢いだけで持っていくのではなく、集中力を高めて、ひとつひとつの音をしっかり刻んでいる。テンションの高さと音楽としてのクオリティーの高さを同時に追求するステージなのだ。さらに「個人的理由」、そして1974年リリースの1stアルバム収録曲「白雪姫の毒リンゴ」へ。コロナ禍によって様々な活動がストップしてしまったこの時代は、毒リンゴによって眠り続けている白雪姫に似ているかもしれない。そんな妄想を抱いたのは泉谷の歌声が今の時代に生々しく響いてきたから。音楽的にも、ニュアンス豊かな歌とギターのアンサンブルが見事だ。ここまでの3曲は泉谷一人の弾き語り。

4曲目からは泉谷しげるのライブやレコーディングに数多く参加しているベースの渡邊裕美が加わっての演奏となった。渡邊の弾くベースは5弦。2人の間は透明のビニールで仕切られている。コロナ対策を取ってのステージということになる。冒頭で紹介したMCを曲のイントロに交えて始まったのは「ネオエアー」。2002年に忌野清志郎と結成したユニット、忌野・泉谷・スパイスマーケットのナンバーだ。この曲の“新しい空気を吸おうぜ”というフレーズは今の時代に意味深に響く。いまや、マスク越しでなければ、空気も吸えない世の中になってしまった。途中にMCを挟みつつ、泉谷がヒリヒリとした歌を披露していく。

「客がいないライブもいいと思う。冷静だからこそ、精度を上げてやれるところもある。自由に観てもらっていい。目の前に泉谷しげるがいるんだ。考えようによっては1対1。自宅にズカズカ入り込んでいるようなものだよ」

配信ライブだからこそのパーソナルなつながりが生まれて、歌が深く届いてくると感じる瞬間もあった。軽快なバックビートに乗っての「無限大食」、泉谷の独特の話法によって曲が加速していく「黒いカバン」など、実にスリリングだ。「春のからっ風」は味わい深い歌と演奏。聴き手の胸の中にある無力感や寂寥感に寄り添うような歌声が染みてきた。

ヤイリからモーリスのトルネードにギターを持ち替えて、「39度8分」へ。ギターだけでなく、ライブそのものもさらに白熱モードへとスイッチが切り替わっていく。歌が進行するほどに熱を帯びて、渡邊のハーモニーも交えて加速。そのまま吠えながら、ギターをかきむしり、ノンストップで「なぜこんな時代に」へ突入。曲から曲への流れのダイナミズムはライブの醍醐味のひとつ。配信LIVEではあってもその良さは見事に発揮されている。「なぜこんな時代に」は1993年発表のシングル曲だが今の時代にもダイレクトに響いてきた。泉谷は歌いながら、「上げろ!」「もっと!」と音響スタッフに音量アップを要求している。画面の向こうの観客を激しくあおるするような渾身の歌と演奏。「お客がいようといまいと、全力を出せる自分が好き。音楽って、全身運動だと思う」という言葉どおりのステージだ。

ここで10分間の休憩。その場で、「10分休め! 多目的トイレは使うな!」と泉谷がスケッチブックに書いている。そして泉谷が座っていた椅子にそのスケッチブックが立てかけられ、その文字が画面に写し出される。当然、最前列の観客もこの休憩に合わせてトイレに行った人もたくさんいたのではないだろうか。が、トイレが混雑することもない。これも配信ライブのメリットのひとつ。

「オーイエー! 後半いくぜ~!」という言葉に続いての再開の一発目は「KEEP・OUT」。疾走感あふれる歌と演奏に体が揺れる。間奏の泉谷の力強いギターと渡邊のニュアンス豊かなベースのアンサンブルが見事だ。続いての「I Like a SONG」ではビニール越しに泉谷と渡邊がアイコンタクトを取ってのスタート。人間味あふれる歌と演奏だ。

「最前列のみなさん、贅沢な、恐怖の泉谷時間を楽しんでください。こういう経験はないだけに新鮮で楽しいですよ」と泉谷。画面に向かって手を振ったり、笑顔を見せたり。画面越しではあるのだが、パーソナルなコミュニケーションがしっかり取れていると感じた。

ギブソン J-45にギターを持ち替えて始まったのは「K」。すべてをさらけ出すような歌声がじわじわと染みてきた。続いてはギブソンのES-335を手にしてロック・テイストの強い曲が続く展開に。ブルージーでフォーキーでファンキーな「スキル」は陰影のある歌とギター、深みのあるベースのコンビネーションがいい感じだ。渡邊のベースから始まったのは「褐色のセールスマン」。強く刻まれるビートに胸が熱くなっていく。さらに泉谷が雄叫びを上げながら、ギターをかきむしり「電光石火に銀の靴」へ。1977年発表のシングル曲で、1980年公開の映画『狂い咲きサンダーロード』でも使用されていた疾走感あふれる曲だ。“君をとじこめる奴”というフレーズがなぜか“コロナ”と重なって響いてきてしまった。泉谷が吠えている。ファイティング・スピリッツあふれる歌声に胸が熱くなる。曲のエンディングで泉谷が仕切りに使われていた透明のビニールのシートに突撃して壊す場面もあった(即座にスタッフが修復)。

ここでまたモーリスのトルネードを手にして、「明日も今日も夢のつづきを」へ。「サンキュー!」「オーイエー!」と吠えてからの歌と演奏。渡邊が一緒に歌っている。「ほら、歌え!」と泉谷がカメラの向こうの最前列の観客にうながしている。さらに「春夏秋冬」へ。この曲が生まれてからすでに48年近くの歳月が経っているが、その時々とシンクロする曲だ。歌の途中でこんな言葉もあった。

「お前らもよぉ、いろいろ大変なことがいっぱいあったなぁ。だからよ、これからもよ、つらいこといっぱいあるかもしれない。だからよ、せめて今日を自分の今日にしろ。自分だけの今日に向かって、そっと歌え」

そしてアカペラでつぶやくように「春夏秋冬」を歌った。配信ライブであってもこの瞬間、たくさんのシンガロングが成立していたに違いない。なぜならば人間は想像力という素晴らしい能力を持っているから。そして共鳴したり共感したりするセンサーを胸に搭載しているから。サイレントのシンガロングの中での「春夏秋冬」はこの瞬間にしかない光を放っていた。が、余韻に浸る間もなく、「アンコール!」とシャウトして「野性のバラッド」へとなだれ込んでいく。泉谷がシャウトしている。渡邊が力強いグルーヴを奏でている。全力を投入してライブをやってきたからこそ、この曲の“野性のパワー”が際立っていく。最後は会場内のあちこちを歩き回りながらの歌と演奏。まわりのスタッフを巻き込むだけでなく、まるで画面からはみだして、こっち側にまで乱入してきそうな勢いだ。
「さあ、配信だからといって、座ってばかりじゃダメだぜ。立ったりジャンプしたりしようぜ」ということで、泉谷と渡邊がジャンプしながらの演奏。最後はまたしてもビニールシートに頭突きしてのフィニッシュ。全力で駆け抜けた約2時間だ。

「全国の最前列のみなさん、ホントにありがとう。また8月にやりますので、任せておいてください。今日はこれくらいで堪忍してやる!」

コロナ禍の中での泉谷しげるの初の配信ライブ、画面越しなのにシンガロングもジャンプも成立していた。音楽的な精度の高さ、パーソナルな感覚など、配信ライブだからこその良さも際立った。本人は「冷静」という言葉を使っていたけれど、その瞬間にしか生まれないエネルギーのほとばしりの熱さ、かけがえのなさも強く感じた。

もちろんなんの気兼ねをすることもなく生のライブが開催できる日が来ることが一番なのだが、コロナ禍によって、これからも工夫していかなければならない日々が続くことは確かだ。重要なのは音楽文化を守ること、そしてミュージシャン、ライブハウス、ライブスタッフが活動していけるように支援すること。配信ライブによってすべてが解決するわけではないが、ひとつのライブの表現のあり方として、定着していくだろう。困難な状況だからこそ、新しく生まれるものもきっとあるに違いない。この日ステージで歌われた「春夏秋冬」の“今日ですべてが始まるさ”というフレーズが温かくて力強いエールにように響いてきた。


取材・文=長谷川誠 撮影=Taku Fujii

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