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うのじ。さんのレビュー
THE GOT KNEED STONEとのリリースパーティーを終えたばかりだが、そのTHE GOT KNEED STONEのメンバーでもある森利昭さん、エンリケさんのふたりとともに登場。
終始、男っぽい音。
リズム隊が強いとここまでドカドカとワイルドな音になるものか、と実に新鮮な1時間であった。
冒頭、白いシャツでふらりと現れた石田さん、軽く名乗ってさっと歌い出す。
「モザイク」
驚いた。
新譜「MOSAIQUE」の冒頭に収録された新曲だが、リリースされてから2ヶ月近く、一度も歌っていない曲なのだ。
リリースパーティーですら歌わなかった。
華やかな曲ではない。
石田さんが掻き鳴らすギターの煽情的な音の上で、破裂するような強い歌い方で歌われている曲。
人が生きるということ、人が本当の意味で自由であるということの、是も非も呑み込んだ歌。強い風をイメージさせる歌。
聴きたくはあったが、音としても曲の持つ雰囲気としても正直、ライブには向いていないかもしれない、と思っていた。
何か、思うこともあったのだろう。
この夜は、1曲目にその歌を選んだ。
CDほどの激しさは抑え、少しゆっくりと、今そこで言葉を選び、紡いでいるかように歌った。
歌詞カードにも掲載されていない歌詞を、耳をそばだてて掴もうとした、2ヶ月ほど前のことを思い出す。
どんな風に歌おうと、あの詞の力は変わらない。
君が望む場所へたどり着けなかったとしても
きっと誰かがそこへ 辿り着くはず
君がそれを悲しく思うのは君の勝手だ
君は君にしかたどり着けない場所にいる
初めてこの曲を聴いた時に訳もなく湧いた涙。
多様を本当の意味で受け入れるのも、受け入れられるのも難しい。優しさに甘えずひとりで生きていくのもとても、難しい。だが、この曲からはそのための力をもらえる気がした。
自分のできることを今いる場所で、しっかりと大地を踏みしめる力を。
この耳で、生で聴けた。嬉しかった。
そして、「誰も欠けてはならない」と謳うPUZZLEへ続く。CDと同じ流れ。
「モザイク」で心を奮い立たされ、「PUZZLE」で救われるのだ。
ライブハウスでひとりで歌うのは久々だろうか。
最後のコーラスは少し迷ったようだが、結局、観客に歌わせた。少し張り詰めた感じもあったハコの空気が途端に優しく明るくなった。
いい瞬間だった。
少しのMCを挟んで、「おいしいものを食べよう」。
やや、歌詞が飛ぶ。客席の野次に笑う。
ご機嫌なロックンロール!
ご機嫌なギターサウンド!
SHOJIMARU、音が大変によくて、弦の弾かれた細かい音が最後尾まで届いた。
ご機嫌なハコ!
「何の歌かわかった? 僕ね、滑舌悪いんですよ、だいぶ問題あるけど」とおどけてみせつつ「満天の星」へ。
星のあまんというキャラクターのこと、星の美しい土地であること、日曜日にはこの曲の舞台、交野市へ訪れることなど、いつもよりはだいぶさらりとした説明をしたのち歌い出す。
ギター1本で歌うのは初めてではないが、歌いこまれてきたこと、SHOJIMARUの音の良さもあって、ギターだけとは思えない迫力があった。オーディエンスにしん、と聴き入らせる力が。
石田さん自身の声にも、歌いだした昨年夏のころよりも、声に強さと何よりもスケールがついたと思う。
もちろん、翌日の大阪Dutchもよかったし、交野で聴いた満天の星にもまた特別な感慨があった。
そして、SHOJIMARUでのエコーも強く効かせた音、声でスケールを作ってぐっと押していくような感じも大変によかったのである。その場、その空気ごとに変わる音を享受できる幸せがある。
ここで、森さん、エンリケさんを呼び込んで、3ピースでの後半。
エンリケさんはSHOJIMARUは経験済、石田洋介、森利昭の両氏は初とのこと。
ちなみにこの3人でやるのも意外なことに、初だそうだ。
石田さんがエンリケさんとの縁をやや長めに語るのだが(不意に笑って「なーにはともあれでかいこーえー」と「でかい声」の節を歌ったエンリケさんだった)、一向に森さんに触れないので森さんも思わず「俺のことは?」と茶々を入れる。石田さん、語ろうとして「今はやめよう、あとにする」と言いながら結局、話さないまま終わった。
「ソウルシンガー」「ライブハウス」「ハッピー・バースデイ」「アイタイ」の4曲。
森さんもエンリケさんも、つい先日のTHE GOT KNEED STONEとのリリースパーティーで演奏していて、その時ももちろん熱い音だったのだが、3ピース、それも強力なリズムパートなふたりだけになると、骨組みが剥き出しな建物のような、荒々しささえ感じるサウンドに。
強い疾走感、強いビート。
煽られるように石田さんの声も太く、荒々しくなる。凄まじい野郎感。
SHOJIMARUの音もまた、最後尾まで粒だって届く素晴らしいハコで、ソファの下から突き上げるようなビートが心地よかった。ご機嫌にすぎた。
「ソウルシンガー」の緊迫感のある声。コール&レスポンスの野郎っぽさよ!
「ライブハウス」ではゆきゆっき、田光さんのコーラス部分を森さんが(本当は二度目の田光さんのパートはエンリケさんのはずだったとか?)。これまた新鮮。
「ハッピー・バースディ」はレゲエのビートが強く強調された。酔うような心地で聴いた。
「アイタイ」では、始める前に「みんなのアイタイ人はどこにいるのかな」と客席に囁くように尋ねた。「空の向こうにいる人にも逢えるよ」とそっと石田さんが言った時、この夜、とある訃報に接したところだったのでことさらにしみる思いで聴いた。
そんな優しい言葉のあとに続いたサウンドは強い疾走感を伴っていた。森さんのドラム、エンリケさんのベースに煽られ、煽られ、次第にテンションが上がっていく。
大きなコール&レスポンス!! 感傷を振り切るように、叫ぶ。
「アイタイ!」「アイタイ!!」と。
正味1時間か。ワンマンではなかったので曲数も絞って、比較的MCも少な目に歌った。
まず他ではない、緊迫した音、野郎感が強い、太い音。声。力強さ。
この夜は楽しい!というより、圧の強い音を聴かせまくってくれていて、私はそれに痺れていた。笑いがまったくなかったわけではないが、少なめではあった。
初めてのハコの緊張感、いつもと少し違う顔ぶれのオーディエンスという状況と、石田さん自身のメンタルと…いろんな事情が重なって、その日その日のライブはできあがっていく。まさに、一期一会だ。
充実した時間だった。来てよかった。
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- 2017/06/29 (木) 15:10
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