GRAPEVINE 骨の髄までライブバンドの真骨頂を見た、日比谷野外大音楽堂レポート

2021/04/28
GRAPEVINE

GRAPEVINE LIVE AT HIBIYA PARK
2021.4.25 日比谷野外大音楽堂


「久しぶりの日比谷野音! 何よりも久しぶりのライブ! お集まりいただきありがとうございます!」

西川弘剛(Gt)がサイケデリックな音色でリフを鳴らしながら、「FLY」で幕を開け、「スレドニ・ヴァシュター」、「放浪フリーク」と懐かしい3曲を立て続けに演奏した直後に田中和将(Vo/Gt)が言った言葉に、はっとさせられた。

そうか。うっかりしていたが、これがGRAPEVINEにとって今年初めてのライブになるのか。今更ながら、思うようにライブができない状況に思わずため息が出てしまったが、悪いことばかりじゃない。このライブの1か月前に発表されたとおり、5月26日には2年ぶりとなるニューアルバム『新しい果実』もリリースされる。4月までライブがなかったのは、バンドがアルバムのレコーディングに専念していたから、という理由もあるのだろう。


「例によって、僕らは“行くぞ!”とか、“みんなの声を!”とか、不謹慎なことは言いません(笑)。いい演奏をしたら、最大限の無音で、最大限のマスクの下の笑顔で答えてください。もしかしたら新しい曲も混じっているかもしれないので、耳の穴をかっぽじって、最後まで楽しんでください!」

皮肉と本音が入り混じる田中の挨拶に思わずニヤリ。この日、GRAPEVINEが午後5時から7時まで、よけいなMCはほとんど挟まずに2時間めいっぱい使って披露したのは、シングルや人気曲だけにとどまらない新旧の計21曲だった。何かを予感させるように3月17日にリリースした新曲「Gifted」をこの日、演奏することは誰もが予想していたと思うが、その他、「リヴァイアサン」、「阿」、「さみだれ」と計4曲も『新しい果実』から初披露したのはびっくりだった。

しかも、「新曲です」という紹介もなく、お馴染みの曲の数々と変わらないテンションで演奏したものだから、面食らった観客も少なくなかった……いや、歴の長いファンはGRAPEVINEらしい!と心の中で快哉を叫んだかもしれない。


とまれ、『新しい果実』というタイトルが現在のバンドを象徴しているのかもしれないが、観客も入れつつ、初のライブ生配信に挑んだことも含め、この日のライブからは前へ前へと向かっているバンドの意識が感じられた。とは言え、“例によって”と田中自身が言ったようにGRAPEVINEはGRAPEVINEだ。配信のカメラに愛嬌をふりまくことも、目の前にいる観客を煽ることもなく、ストイックなまでに演奏を繰り広げ、その結果、変わらないバンドの在り方と、本当の意味で自由に楽しむことだけを観客に求めながら観客の熱狂に頼らずライブを続けてきた昔気質のバンドの強さを印象づけたのだった。

いや、印象づけたと言ってしまうと、バンドがそれを意図していたように聞こえてしまうから、バンドの在り方と強さが2時間の熱演から浮き彫りになったと言い直そう。変わらぬバンドの在り方で前へ、前へと進んでいくことが大事なんだと思う、きっと。


これまで彼らのライブを観るたび、歌の魅力はもちろん、味わい深いバンドアンサンブルの妙を楽しませてもらってきたが、その意味でも、彼らは変わらない姿を見せてくれたのだった。前述したように「いい演奏をしたら」と田中は言ったが、ライブを観ながら、エモーショナルな西川のギター、グルーヴィーな金戸覚(Ba)のベース、タイトな亀井亨(Dr)のドラム、そして、場合によっては飛び道具にもなる高野勲(Key/Gt)のキーボードが、もちろん田中の歌を真ん中に置いた上で絶妙に絡み合うアンサンブルに2時間ずっとわくわくさせられっぱなしだった。

ちなみにソールドアウト公演だったため、筆者は配信でライブを楽しませてもらったのだが、楽曲の魅力や演奏そのもので勝負するバンドだから、配信が不利になるということはこれっぽっちもなかったし、5人それぞれの演奏をじっくり楽しむことを考えるなら、配信という選択も全然ありだったと思う。たとえば、田中と西川がトラッドフォーキーにギターのアルペジオを重ねたメランコリックなスローナンバー「アルファビル」で、田中の歌に西川がギターでオブリを加える時の指板の上を指が軽やかに跳ねるようなプレイをどアップで観ることができたのは、まさに配信ならではの見どころだったと言ってもいい。因みにその「アルファビル」は終末を題材にしたと思しき歌詞が今の気分にぴったりだった。


話が前後して申し訳ない。「もしかしたら新しい曲も混じっているかもしれない。耳の穴をかっぽじって最後まで楽しんでください」という田中の挨拶から、カントリーがサビでソウルっぽくなる「Darlin’ from hell」、田中がやさしい声で歌ったバラード「風待ち」、無骨に8ビートを刻む金戸のベースとフロアタムを巧みに使った亀井の重ためのドラムがどしっと演奏を支えた『新しい果実』からのオルタナロックナンバー「リヴァイアサン」、80’sニューウェーブなファンクロックの「Golden Dawn」、ディレイを掛けたと思しき西川のギターが演奏を包み込む80’sサイケな「無心の歌」、そして前述の「アルファビル」。そんなふうに自分たちのレパートリーが持つ振り幅の広さを印象づけたところで飛び出したのが新曲の「阿」だ。

ポストパンク的なゆがみとサイケな音響というアバンギャルドな魅力を持つと同時に、ロッキンでグルーヴィー、おまけに田中のシャウトはソウルフルという摩訶不思議な印象は、緊張感に満ちた演奏とともにこの日のハイライトの一つだったと言ってもいい。終演後、その「阿」が『新しい果実』に収録されることを知り、アルバムへの期待がよけいに高まったが、バンドはそこから一転、自由度の高い演奏からブラックミュージックの影響が浮かび上がるバラードの「弁天」、楽曲が持つアーバンな魅力で観客の体を揺らした「すべてのありふれた光」をしっとりと聴かせると、さらに一転、タフなロックンロールナンバー「MISOGI」を繋げる。観客が踊りながら、拳を挙げたのは、エネルギッシュな演奏に加え、シニカルなロックンロール賛歌に聴こえる歌詞に共鳴したからだ。

続くソウルフルなロックナンバー「JIVE」ではワウを踏んだ西川のリードギター、高野の鳴らすクラビネットっぽいキーボードの音色が70年代テイストを演出。16ビートを刻みながらグルーヴを作る金戸のベースプレイも聴きどころだった。そして、ホーンを鳴らした「Alright」。田中が手拍子を求めながら、曲が持つアンセミックな魅力がライブの終わりに向かって、演奏の熱をぐっと上げる。この曲で西川が奏でるスティーヴ・クロッパーばりの歯切れのいいカッティングは、何度聴いても鳥肌ものだ。

そこからバラードの「さみだれ」、リバービーに響かせた亀井のドラムと緊張感に満ちたシンセのループが不穏に鳴る「Gifted」――『新しい果実』からさらに2曲を披露。《神様が匙投げた》と歌う一方で、《おまえの価値をくれないか》と聴く者に求める「Gifted」に込めた思いは、もしかしたら歌い続けることを歌ったアンコール1曲目の「Arma」と通じていたのかもしれない。


アンコールに応え、ステージに戻ってきた田中は、『新しい果実』のリリースに伴うツアーが6月に始まることを伝えると、「ツアーの時まで達者で。その時は元気な顔で会いましょう」と観客と約束を交わすと、“今日の0時に”と新曲「ねずみ浄土」を配信リリースすることを発表。改めて、バンドの意識が前へ、前へと向かっていることを印象づけると、バンドはポール・マッカートニーっぽいコード進行が耳に残る前述の「Arma」、「スロウ」、そして「smalltown,superhero」の3曲を披露。どれもじっくり聴かせる曲だったことに加え、バラードで締めくくったところがGRAPEVINEらしいと思った。そして、そのバラードを演奏しながら、じわじわと熱を高めていった5人のアンサンブルに骨の髄までライブバンドであるGRAPEVINEの真骨頂を見たのだった。


取材・文=山口智男 撮影=Taku Fujii

 

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