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ひらりさんのレビュー
場内の暗転が開演を告げると、共に音を紡ぐバンドメンバーに続いて御大がステージへ。スタッフに手を添えられて慎重に歩みを進める姿は、86歳を迎えたフレディの現在を如実に物語っており、これから披露される演奏の出来に少なからず不安がよぎります。
でもね、ピアノの椅子に座り鍵盤に指を置いた次の瞬間には実にスムーズに演奏が始まっているんだな。ピアノを含んだ4種の楽器が奏でる音はシンプルで音数は多くないんだけど、絶妙なバランスで絡んではこちらの感情を揺さぶってくるのです。今夜はジャズを軸としてサンバやボサノヴァ、スウィングなど多種に及ぶアレンジを披露してくれたのですが、いずれにおいても演奏される音は最小限に抑えられ、速弾きなどの派手なテクニックを省いた緩やかなリズムで展開されるため「なんか自分でも弾けそうだぞ」と思えたほどでした(笑)
そして演奏に重なるフレディの声は齢に起因してドライに響くものでしたが、「枯れ」は冷たさよりむしろ温かみを感じさせ、まるで観客に語りかけているかのよう。その味わい深いヴォーカルが最後のピースとしてじんわりと各曲の隙間を埋めていきます。演奏の合間などに客席へ向けて放つ流し目も色気があり、彼を中心とするカルテットが作り出す世界にすっかり支配された客席は、うっとりとステージを見つめて体を揺らす方々であふれておりました。
グラミーに3度もノミネートされ、独自の世界観を確立したフレディのステージを実際に体感して「もはや『ナット・キング・コールの弟』って紹介は不要だと思うなあ」なんて感想を漏らしてしまった私。2016年の「音活」を気分良く締め括ることができました。そして、最上級のホスピタリティ・マインドで私たちを迎えてくださったコットンクラブの皆さま、今回も素敵な時間をありがとうございました。
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- 2020/10/25 (日) 01:37
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