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フェス特集2024

TOOBOE、ワンマンツアー『和やかな支配』千秋楽オフィシャルレポート

2024/03/26
TOOBOE

3月20日に恵比寿ザ・ガーデンホールで開催されたTOOBOEの『TOOBOEワンマンツアー「和やかな支配」』ツアーファイナル公演のオフィシャルレポートが到着した。


TOOBOEが3月20日、東京・恵比寿ザ・ガーデンホールにて『TOOBOEワンマンツアー「和やかな支配」』千秋楽公演を開催した。

TOOBOEは、ボカロP・john名義でも活動するマルチクリエイター。今回のツアーは、1月末にリリースしたばかりのアルバム『Stupid dog』を携えて、全国7都市にて開催。3月7日に大阪で迎えた初回公演から、わずか2週間足らずで7公演を敢行するという、スタッフサイドの強気なスケジュールに慄きながらも、体力面、精神面ともに健やかに千秋楽まで完走できたとのことだ。『Stupid dog』収録曲を軸に、ライブ定番曲から“久しぶり”な楽曲まで新旧織り交ぜながら、現時点での集大成を見せた一夜を振り返ろう。

と、その前に、アンコールで解説された、ライブタイトル「和やかな支配」の意味について触れておきたい。今回、“支配”という言葉を用いたのには、ふたつの背景があるという。

ひとつめに、音楽とは通勤通学など、日常生活において最も下層にあるものだが、ライブ空間に限定すれば、それが一時的ながら最も上層に入れ替わるという考え方。つまり、音楽によってその場が“支配”されるということである。この話こそ、TOOBOEが友人から聞かされたものらしく、あまりに上出来な考え方に「オレが言ったことにならないかな」とぼやいていたが、今回のタイトル決めでも特に重要なピースになったという。

ふたつめに、TOOBOE自身が、愛を渇望する人間が最も美しいと考えているから。この期間、タイアップの縁もあり、『チェンソーマン』のデンジや、『往生際の意味を知れ!』の市松海路と、あえてラフな書き方をすれば、意中の女性からヤバい匂いがして、絶対に関わってはならないと頭では理解しているのに、それでもその人に愛されたいと思ってしまう……つまりは、愛する人に“支配”されるキャラクターと立て続けに出会ってきたTOOBOE。その経験が、今回も披露された「敗北」「心臓」「浪漫」などの制作に対しても影響を与えてきたという。

そんな裏テーマまで備えたライブが、いよいよ開幕。1曲目は「廻する毒素」。TOOBOEが姿を見せると、エレキギターを手に取り、そのままこの日の一音目をかき鳴らす。歌唱が始まっても、ギターと腕を重力のままにぶら下げながら、左足はお立ち台に軽く乗せ、少し前傾姿勢でマイクに口を当てる……ロックスターさながら。過去のライブで見せてきたように、脱力感と熱量が同居するTOOBOEらしさを感じさせたが、それが“違う”と感じたのはここから。1コーラス終わりに「東京!」と荒っぽくシャウトすると、2コーラス目では盛り上がるフロアを見渡してOKサインを示す。その後も、文字として書き起こすと陳腐だが、“Hey Hey”と会場全体を煽り倒す、これまで“らしからぬ”TOOBOEが、そこにはいた。

続く「天晴れ乾杯」では一時的に“和やかさ”からかけ離れ、サビ直前の〈貴方の為に 歌っていようかな〉で、もはや嘆きのような絶叫を響かせる。声量で圧倒し、その場の空気を掌握する感覚。最新アルバム『Stupid dog』の意味は、“愚かな犬”や“馬鹿げた犬”で、犬とは元来、飼い主に飼われる以外に居場所がないものという考え方があるが、そんな内容のアルバム制作を経たためか、TOOBOEのなかの“犬純度”が上がりまくっている。支配すら受け入れて、いっそ人生を謳歌しようではないか。先ほどの絶叫も、そう言わんばかりに受け止められた。

“音源通り”に歌うライブから、アドリブ、フェイク、アレンジ、シャウトなど、即興性と熱量を兼ね備えた、“現場だからこそ”を味わえるライブにーーTOOBOEの“ライブアーティスト”としての進化は、本人だけでなく、フロアのファンも感じた様子。たとえば、曲にあわせて大声を出すなど、ライブ空間に溶けて同化する感覚を抱く方向へと、ゆっくりながらも変化しているように思えた。

また、この日のセットリストは、リードトラックになぞらえれば“春の咆哮祭り”と言わんばかりに、ファンとたくさんの声を交わす楽曲が選ばれていた印象がある。その内容は、「ハードで、暑苦しいセットリスト」「後にも先にも、こんなセトリにはしません」と、本人からも語られた通り。「みんなと歌うのが、どっちかと言うと好きなので」と、和やかさを装いつつも「最高の、伝説の一日にしようじゃないかというわけですよ」と静かに意気込むあたり、ツアーファイナルを迎えられた喜びの、そのすべては隠しきれていなかった。

5曲目「ミラクルジュース」のAメロでは、裏で重ねているコーラスの方に声質を寄せる形で、原曲以上の艶っぽさを醸し出しながら、エッジーさも兼ね備えた歌声を披露。楽曲のポイントであるサビ直前のブリッジは、フロアにマイクを向けてシンガロングを誘う。2コーラス目の〈バチクソに美味い話だけを 信じていたいけどね〉は、TOOBOE楽曲のなかでも民衆の声を代弁した珠玉のラインなのだから仕方がない。ほかにも、楽曲のキメとなる〈ダーリン〉は、「みなさん一緒にいきましょうよ」と投げかけつつ、最後のブリッジは思わず声が裏返るほど、迫真のシャウトを響かせていたことも記しておこう。

9曲目「fish」からは、ステージ後方のスクリーンに映像が映し出される。この楽曲では、水泡が地上に向けてぽこぽこと浮かび上がるなど、楽曲の世界観を引き出す演出に。イントロとアウトロでは、原曲にはないキーボードの独奏が、渇愛の想いを情緒いっぱいに膨らませ、じっくり、たっぷりとその音色に酔いしれる時間となった。

とここで、TOOBOEから“どうぞこちらに”と手で案内をされて、中央のお立ち台にスペシャルゲストが招かれる。「紛い者 feat.楠木ともり」の時間だ。楠木が放つパンチのある歌声は、まるで鬱憤が棘となって突き刺さるかのよう。それを浴びて、TOOBOEも2コーラス目終わりの間奏で拍手を届ける。大サビでは、左右それぞれのお立ち台に上がり、お互いの才能をぶつけ合う。この楽曲は、自分たちのスキルを想定外の成功が途端に追い越していってしまう葛藤を描いたもの。これからの時代を切り拓きながら、それゆえ時にもがき苦しむ運命を背負った天才たちが、お互いを鼓舞し、称え合うかのような光景だった。

楠木がステージを去った後、彼女のゲスト出演に報いるべく、会場全体で何度も絶叫した“感謝の錠剤”。TOOBOEもまた、重心を下に落とすタイプのジャンプで声を絞り出し、大サビ直前には「最高です!」と太鼓判を挟み込んだ。そこからも「ダーウィン」「咆哮」と、流れを切らさぬ展開続きに。特に、アルバムのリードトラック「咆哮」は、隙間がないほどに音を敷き詰める“TOOBOE節”全開の一曲。ボーカルもメロディも常にスピットしつつ、曲中にはお立ち台から大ジャンプも(ちなみにTOOBOEが履いているのは、靴ではなくサンダルである)。このライブのピークタイムを象徴する跳躍だった。

「咆哮」の勢い余ってか、「はい、MCです! こんちわ!」と、それまでの世界観をブチ壊す始まりとなったライブ終盤のMC。すると突如、とある芸人の名前を挙げて、どんな世界においても勝ちを奪うには、0か100かでいうところの100のエネルギーでぶっ飛ばすしかない。世界観なぞ、二の次という持論を展開し、MCの時間に“MCです”と、ある意味で生真面目に宣誓した先ほどのシーンに対して弁明をする。また、すでに14曲をも歌い終えていることに「ビビりますよね」と一言。このMCをしたのが、18時58分のこと。まだ開演から1時間も経っていなかっただけに、TOOBOEのラン&ガンなライブスタイルの物凄さを実感させられた。

本稿前半にて、TOOBOEのライブアーティストとしての変化について触れたが、ここで本人からも同様の言及が。本番前には緊張し、大勢の前で下手なことができないからという理由で、これまではライブが苦手だったと明かすTOOBOE。それでも、今回のツアーで回数を重ねることで、徐々に自身のなかでリミッターが外れ、「こう言うとすごく失礼だけどね、今回からやっとライブが楽しくなってきた気がする」と、安堵の表情で語った。

その想いは、この日のMCからも感じられたところで、ライブ序盤こそ自らフロアに両手を振らせたのに「うわ~、気持ちわり~」「うじゃうじゃってした」と、最近の定番となりつつある“ツンデレMC”をしながらも、それが出たのはこの場面だけ。ライブ中盤には「中盤戦、盛り上がっていきましょう!」と、いかにもライブらしい煽りをしたり、メジャーデビュー初期を振り返り、ファンに何度も感謝をしたり。本人がライブを楽しめるようになった結果として、MC/パフォーマンスともスタイルが変わったと考えれば、なるほど納得がいく。平凡な言い方になってしまうが、本当によいライブだった。

本編終盤には、john名義のセルフカバー「ヒガン」で、〈まるで死んだ真夏の廃魚〉のように、純愛ながらも歪んだ愛情を日向に背を背けつつ高らかに歌うと、メジャーデビュー以降の“始まり”の楽曲である「心臓」では、MVをバックに熱唱。会場一体となって間奏で鳴らした三三七拍子を受けて、TOOBOEもその熱を返すように、大サビの〈間違いも愛せるよ 馬鹿なもんでさ〉を、ブレス抜きで流すように歌うなど、気持ちよくのびのびと歌い上げる。最後は「往生際の意味を知れ!」に「浪漫」と、緩急あるドラマティックな楽曲で大団円を迎えた。

アンコールは、「毒」、今年2月末にリリースしたばかりの新曲「光」、ツアーファイナルにこそ相応しい「千秋楽」とクールダウンしながら、〈救難信号を発令している何処かの貴方に 届けたい物があるから此処で歌を歌ってる〉とメッセージを送る。“支配”から解き放たれて、明日からの変わらぬ日常へーーいつもより和やかな心持ちで帰路に着くだろうファンを、TOOBOEは名残惜しそうに2度ほどちらりと振り返りながら、手を振って見送った。

ライブ終了後には、6月5日に東京・Spotify O-EAST、翌週13日に大阪・梅田CLUB QUATTROにて『TOOBOE「交遊録Ⅱ」』開催情報が明らかに。2023年9月、東京・WWW Xで秋山黄色を迎えて始まったTOOBOE主催の対バン企画だが、今回は東京・大阪の2公演にまで規模を拡大し、大阪公演のゲストには盟友こと煮ル果実が。東京公演のゲストは近日解禁。なお、チケットはTOOBOEの公式ファンクラブ「敗北倶楽部」にて最速先行を受付中なので、ぜひ忘れずにチェックを。

取材・文=一条晧太 写真=ゆうと

 

セットリスト

TOOBOEワンマンツアー「和やかな支配」
3月20日に恵比寿ザ・ガーデンホール

01.廻する毒素
02.天晴れ乾杯
03.博愛
04.アンバランス
05.ミラクルジュース
06.爆弾
07.敗北
08.紫
09.fish
10.ivory
11.紛い者 feat. 楠木ともり
12.錠剤
13.ダーウィン
14.咆哮
15.ヒガン
16.心臓
17.往生際の意味を知れ!
18.浪漫
<ENCORE>
19.毒
20.光
21.千秋楽

▼セットリストプレイリスト公開中
https://TOOBOE.lnk.to/ymiJVM

ライブ情報

TOOBOE 交遊録Ⅱ
■東京公演:2024年6月5日(水) Spotify O-EAST
open 17:30 / start 18:30
GUEST:??

■大阪公演:2024年6月13日(木) 梅田CLUB QUATTRO
open 17:45 / start 18:30
GUEST:煮ル果実

<料金>
スタンディング ¥5,500 (税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付き)

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