第40回
「こんなに面白いクラシック系コンサートは見たことがない」葉加瀬太郎コンサート
2016/11/25
もちろん彼のことはデビューした頃から知っていた。1990年に<クライズラー&カンパニー>というユニットでデビューしたとき、“クラシカル・クロスオーバー”というニュー・ジャンルの旗手として注目を浴びていた。しかし、はっきり言って、その当時の私の興味はそこにはなかった。というわけで、しばらくの間、知ってはいるけど積極的に興味は持てなかった、というわけである。
ところが、ここ数年だろうか?私は、演歌・歌謡曲でもない。Jポップでもない。良質な音楽を<Age Free Music>と名づけて提唱している。そんな中で私の視界に入ってきたのが葉加瀬太郎だ。きっかけはTBSテレビ系の<情熱大陸>という人気ドキュメンタリー番組。この番組が好きで私はよく見ているが、この番組のオープニング・テーマ「情熱大陸」を気に入ってしまったのである。
インストゥルメンタルだが、それを超えてしまう説得力があるこの曲を聴いて、私はある日ふと思ってしまったのだ。これぞ私が求めているAge Free Musicなのではないか、と。
インストゥルメンタルは歌ものに比べて不利だ。ボーカルという最大の武器を持っていないからだ。しかし、「情熱大陸」はボーカルがないにもかかわらず、歌ものを超えてしまう説得力があるのだ。
「情熱大陸」のメロディーを聴いていると、私の脳裏のスクリーンには映像が浮かび、なおかつメロディーには詞がついてしまっているのだ。聴きながら自然と詞が浮かんでくるようなインストゥルメンタルは初めてである。それ以来、私は葉加瀬に興味を持つようになったのだ。
当然のことながら、3年ぶり、ソロ20周年記念のニュー・アルバム「JOY OF LIFE」を聴いた。見事なできあがりである。彼はよく「僕らプロの仕事は“求められた”ものに応えること。“やりたい”ものを反映させること。このふたつのバランスを取ることが重要」と語っているが、アルバム「JOY OF LIFE」はそれができていると言っても過言ではないだろう。
この手の音楽は、ややもすると“やりたい”ことをやりすぎると、「いいけど売れない」というマニアックな作品になってしまう。かといって、クライアントの要望に応えて“求められた”ものを忠実に実行すると質が落ちてしまう。そんな真反対に違うことをバランス良く調整して、いい作品でしかも売れる作品が作れるかどうかがポイントなのだ。
葉加瀬はそれを見事にやりこなしているアーティストではないだろうか。その証拠に彼のCDはベストセラーになり、コンサート・ツアーでも大変な観客動員力を誇っているのである。
「コンサートは見事なエンタテインメントだった!」
2016年11月16日(水)、東京渋谷のオーチャードホールで<20th Anniversary 葉加瀬太郎コンサートツアー2016>を見た。
彼のコンサートをきちんと見るのは初めてだったが、見終わっての感想は見事なエンタテインメントだった、ということ。
正直言って、クラシック系のコンサートは敷居が高いのか堅苦しくてつまらないというイメージがあるが、このコンサートは違っていた。もちろん、聴かせるところはきちんと聴かせるというクラシック・コンサートの基本をベースにしつつも、葉加瀬のおしゃべりがこれがまた“芸達者”なのだ。話術の名人、さだまさしをほうふつさせるような軽妙洒脱さで、こんなクラシック・アーティストがいたのか?とびっくりさせられた。
また、物販紹介コーナーも、THE ALFEE並のおもしろさで良かったし、<ヴァイオリンを弾こうのコーナー>も楽しかった。このコーナーでは、お客さんをひとり選んでヴァイオリンを教えて、そして最後は演奏までしてもらおうというものだが、ヴァイオリンを初めて弾く人がいつの間にかステージ上でメンバーのひとりとなって演奏してしまっている姿には感心してしまった。楽器を弾いたことがない人に、楽器を弾いてみたいと思わせてしまうことは素晴らしいことである。
また、物販グッズである“ハカセンス”、つまり、扇子を振りながら踊り狂う様は往事のジュリアナ・トーキョーをほうふつさせて、これがクラシック・コンサート?とびっくりさせられた。つまり、それだけエンタテインメントに徹しているということだろう。こんな面白いクラシック系コンサートは見たことがない。
「なんだこれは?」これは葉加瀬に対する私の最高の誉め言葉である。
(文/富澤一誠)
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