第15回
大人のラブソング〈熟恋歌〉を歌うジャズ・シンガー“石橋みどり”に注目!
2015/11/12
〈Jポップ〉でもない。〈演歌・歌謡曲〉でもない。良質な大人の音楽を〈Age Free Music〉と名づけて私は提唱している。なぜかというと、時代が〈Age Free Music〉を必要としているからだ。若者たちが音楽離れをしている今、音楽を聴きたいと思っているエイジフリー世代を活性化して、新しい地平を切り開くことは急務と言っていい。
エイジフリー世代は良質な大人の音楽を求めている。その証拠に、秋川雅史の「千の風になって」、すぎもとまさとの「吾亦紅」、秋元順子の「愛のままで…」、坂本冬美の「また君に恋してる」、樋口了一の「手紙」、植村花菜の「トイレの神様」、レーモンド松屋の「安芸灘の風」、五木ひろしの「夜明けのブルース」などエイジフリー世代が求めている“良質な大人の音楽”が自然発生的に生まれているからだ。ということは、裏を返せば、こういう大人の歌が求められているのだから、大人の歌を狙って作ればいい、ということである。
秋元順子にしてもレーモンド松屋にしてもメジャー・デビューをしたのは58歳ぐらいのこと、そしてブレイクしたのは還暦を過ぎてのこと。この事実は何を物語っているかというと、年齢は関係ないということだ。この事実に気がついたとき、私は「歌の上手い50歳過ぎの歌手を捜せ」と思った。歌は突きつめてみれば“人柄”と言っていいだろう。〈歌は人柄〉とするならば、人生経験が豊かな歌手は大人の歌を歌える素質があるということだ。
それ以来、私の“歌のアンテナ”は50歳過ぎの大人の歌手に敏感になっている。今回そんな私の“歌のアンテナ”にひっかかったのが、石橋みどりという大人のシンガーである。
10月27日(火)ジャズ・ライブハウス〈銀座Swing〉に行って〈石橋みどり〉のライブを見た。
一流のジャズ・ミュージシャン――根市タカオ(B)大森史子(Pf)サバオ渡部(Ds)藤井寛(Vib)など――のバックアップを得て、彼女はジャズ・スタンダード・ナンバーを歌ったが、歌の表情が豊かで、まさに〈歌は人柄〉を地でいく彼女ならではのオリジナリティーにびっくりしたものだ。それもそのはずで、ジャズ・シンガーとして彼女は独自の世界を確立しているのだ。
石橋みどりのキャリアを紹介しておこう。日本航空の国際線客室乗務員として世界を駆けめぐり、海外で聴いたジャズに魅せられて、その後、マーサ三宅に師事し、スタンダード・ジャズのプロシンガーをめざす。2001年、ニューヨークのカーネギーホールに出演。ニューヨーク・スイートベイジル・コンサートにも出演。2002年11月23日、日本ジャズ界を代表する作曲・編曲家の前田憲男、プロデューサーの稲垣次郎のバックアップを得て、優しく上品なヒーリング・ジャズの世界を表現したデビュー・アルバム『LOVING JAZZ』をリリース。2007年1月、カンヌ音楽祭に出演し、ヨーロッパ・デビューを果たす。2009年春、セカンド・ミニアルバム『Lost Around Midnight』をリリース。2011年、〈第4回沢村美司子優秀歌唱賞〉受賞。
ジャズ・シンガーとして実績のある彼女が〈大人の歌謡曲〉にチャレンジしたのが、日本クラウンからリリースされたシングル「恋の果てまで/恋はラビリンス」である。このシングルを聴いたとき、これぞ私が提唱している〈Age Free Music〉である、と確信した。それで私がパーソナリティーを担当している〈Age Free Music!〉(FM NACK5)にゲスト出演していただいた。
「よりたくさんの人たちに聴いていただくためにチャレンジさせていただきました」という、彼女の静かだが内に秘めた想いが熱いチャレンジに、私は拍手を送りたいと思い、今回、ライブに行ってみることにしたというわけだ。
彼女のジャズ・ライブに酔いしれた人たちが、彼女の〈大人の歌謡曲〉に暖かい拍手を送っていた。おそらく彼女の歌う〈大人のラブソング〉がハートを打ったのだろう。数あるラブソングの中で、特に濃密な大人の愛を描いたラブソングを〈熟恋歌〉と私は名づけているが、まさに彼女の〈大人の歌謡曲〉は〈熟恋歌〉である。
湯川れい子の歌詞が素晴らしい。”無口なくせにお喋りな指”なんてそう書けるものではない。それを石橋みどりが歌うと、なんとも言えないセクシーさがほとばしり出てくるのだ。秋元順子に続く〈大人の歌手〉と私は見たが、あなたも一度自分の耳で確かめてみて欲しいものである。
(文/富澤一誠)
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