第18回
〈サマ&オー・デ・モンド〉のレコ発ライブ!こんなにすごい〈ミュージック・バトル〉を私は今まで見たことがない。
2015/12/24
音楽評論家という仕事柄、毎年数え切れないほどのコンサート、ライブを見るが、正直言って、ほとんど驚くことはない。なぜならば、どんなにすごいと思われるコンサート、ライブでも似たようなものを過去に見ているからだ。つまり、私のコンサートというファイルにはほとんどのパターンが蓄積されているのだ。ということで、何を見ても「なるほどな」ということですんでしまうのである。
しかしながら、今回は私の〈コンサート・ファイル〉にはない正真正銘のこれまで経験したことのないコンサートを見て久しぶりに感動している。そのコンサートとは、12月18日(金)に東京・中目黒にある楽屋というライブハウスで行なわれた〈samA&EAU DE MOND 2nd. アルバム『白夜のワルツ』レコ発記念LIVE in 楽屋〉である。
〈samA&EAU DE MOND(サマ&オー・デ・モンド)〉は、samA(トータル・プロデュース&ボーカル)、ひび則彦(サウンド・プロデュース&アルト・サックス)、中村力哉(ピアノ)、カイドーユタカ(ベース)からなるバンドだが、ジャズをベースにしてアニメソングやJポップの名曲を取り上げたり、オリジナル曲もやったりと幅広い音楽性で注目を浴びている期待の新星である。
彼らが去年の5月21日にリリースしたデビュー・アルバム「ジャズ・アニメーションズ」(ヴィーナスレコード)は衝撃的だった。アニメソングをジャズにアレンジしたコンピレーション・アルバムは多々あるが、それでは単なる企画物になってしまうが、このアルバムは違っていた。原曲を尊重しながらも卓越したアレンジ・センスと演奏力でクラシックとも融合させて、オリジナル作品に仕上げていたからだ。
そんな彼らだけに、セカンド・アルバムに期待をしていたところ、『白夜のワルツ』はオリジナル曲(11曲)にボーナス・トラックとしてカバー曲(2曲)を収録した全13曲入りで聴きごたえが十分だった。ピアノ・トリオを軸にサックス、ギター、ボーカル、さらにゲスト・ミュージシャンに佐藤達哉(テナー・サックス)、小山太郎(ドラムス)という両巨匠を迎えての見事なコラボレーション。どの曲を取っても聴きどころが満載である。
それとびっくりしたのは、オリジナル曲に歌詞が付いているにもかかわらず、ボーカルが入っていない、つまり、〈オフボーカル〉でありながらも、インストゥルメンタルで十分に聴かせてしまうということだ。
ボーカルのsamAはボーカルをあえて取ってはいないが、スキャットなどのボイスだけで、その存在感を示している。ということは、もしもボーカルを入れたらどれだけの存在感を示してしまうのか、と聴き手に勝手に想像させてしまうということだ。ボーカルなしのインストゥルメンタルで、こんなにボーカリストの存在感を感じたことは一度もない。その意味で、こんなバンドは見たことがない。「何だ、これは?」と思わせる“すごいバンド”である。
そんなこともあってか、〈レコ発ライブ〉には期待感を持って出かけて行った。1部と2部に分かれていて、1部は淡々と聴かせる内容で、「クレオパトラの涙」「グリーン・グルーヴ」「残酷のワルツ」「白夜のワルツ」「水滴のワルツ」「サザエさん/セント・トーマス」などを絶妙なアレンジと味わいのある演奏で聴かせてくれた。まさに私が言うところの、〈演歌・歌謡曲〉でもない。〈Jポップ〉でもない。良質な“大人のための音楽”〈エイジフリー・ミュージック〉だった。大人の音楽に酔いしれながら料理とお酒を堪能できる、まさにエレガントかつゴージャスな夜だった。
圧巻は2部だった。スペシャル・ゲストにサックスの巨人・佐藤達哉、ドラムの巨匠・小山太郎、ゲストに宇田大志(ギター)、竹下宗男(ドラムス)、今野大輔(ドラムス)。ヒビ★チャズケのメンバーでもある染谷真衣(アルト・サックス)、筒井洋一(テナー・サックス)、小仲井紀彦(バリトン・サックス)が参加しての、技ありスピリットありのセッションを“バトル”にしてのコラボレーションによる、これぞエンタテインメントの世界だった。
私はこんなにハラハラ、ドキドキとする音楽、しかも楽器による〈バトル大会〉はこれまで見たことがなかった。特に本編ラスト曲「メロメロ」と、全員によるアンコール・フィナーレ曲「スペイン」は、メイン・イベントにふさわしい〈ミュージック・バトル〉だった。
「メロメロ」では、ソプラノ・サックスのひび則彦とテナー・サックスの佐藤達哉によるバトルがすごかった。ひびが横綱・佐藤の胸を借りて突っ張りをかませば、「なんぞ、これしき」とばかりに、佐藤が横綱の底力で押し返す。すると、今度はひびが土俵を割ってはなるかとばかりに再び押し返す。そこで佐藤も横綱は負けるわけにはいかないと、ジリッジリッとにじり寄って出る。まさにサックス同士による見ごたえのある力相撲だった。手に汗を握る、いや、心に汗をかく、すさまじいコラボレーションだった。
そんな横綱相撲に刺激を受けたのか、全員が参加してのアンコールは、それぞれが100パーセント以上の実力を発揮しての、すさまじいばかりのベスト・セッションとなった。ボーカルのsamAの、“声”を“楽器”にしての“匠の技”が隠し味となったオールスター・バトル。結果的に、それが最後に小山太郎、竹下宗男、今野大輔、3人によるドラマーの“3役揃い踏み”となったのだ。お互いに負けられない、という意地と意地のぶつかり合いが、すべてのミュージシャンの潜在的能力を引き出したのだ。こんなにすごい〈ミュージック・バトル〉を私は今まで見たことがない。
(文/富澤一誠)
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