第2回
谷村新司が見せてくれる〈オンリーワンの世界〉
2015/04/30
4月4日(土)に東京・国立劇場大劇場で〈谷村新司リサイタル2015「THE SINGER」〉を見た。去年も見たが、今年は〈第1部〉と〈第2部〉に分かれていて、特に〈第2部〉はかつて谷村が1986年から18年間、青山劇場でやり続けた〈ロングランリサイタル〉のエッセンスを踏襲した特別構成で興味深かった。実は谷村、去年の12月に3DAYS、青山劇場で〈ロングランリサイタル〉を復活させている。青山劇場が閉館するというので復活はあくまでもスペシャルではあったが、これが内容的に素晴らしかった。一言で言えば〈大人のエンタテインメント〉である。
おそらくそのときの手ごたえがあったからこそ、谷村はあえて〈第2部〉を〈ロングランリサイタル〉形式にしたのかもしれない。
ロングランリサイタル特有の赤のオペラカーテンが降りてステージが転換したとき、私の頭の中には18年間通い続けた青山劇場の〈ロングランリサイタル〉がフラッシュバックしていた。
青山劇場で〈CORAZON〉という谷村の初めてのロングランリサイタルが行われたのは1986年9月3日から13日までのことだ。このとき37歳だった彼は、歌い、踊り、しゃべった。シルクのシャツが、タキシードがよく似合う彼に、エレガントな30代の大人の女性たちが盛んに拍手を送っていた。そこにはデニムがよく似合うアリス時代の彼はどこにもいなかった。だから、とまどってしまった聴き手もいたようだ。アリス時代のノリのいいポップなステージではなく、どちらかというとシャンソンふうのステージっぽく聴かせるようになっていたからだ。今にして思えば、彼はそのときに良質な“大人の音楽”による〈大人のエンタテインメント〉にチャレンジしていたのだ。今、改めて考えると、これはすごいことだ。そのときはまだ皆がヒット曲を出すことを競い〈ナンバーワン〉をめざしている時代だった。そのときに彼は既に〈オンリーワン〉をめざしていたのだ。
その頃、谷村は私のインタビューにこんなふうに答えている。
「レコードがヒット・チャートで何位になったとか、そういう次元にはいたくないんですよ。歌を通じて人に出会うということが一番大事で、その歌が何位になったとか、何枚売れたとか、さほど大きな問題じゃない」
つまり、谷村の価値観が変わってきて、〈ナンバーワンからオンリーワンへ〉と進むべき方向性が明確になったということだ。
〈オンリーワン〉への第一歩が〈ロングランリサイタル〉というわけである。そして彼は18年間かけて彼にしかできない〈オンリーワンの世界〉を確立したのだ。それ以来、彼は〈オンリーワン〉という独自の道を歩みつづけている。構想12年、5年ぶりのニュー・オリジナル・アルバム「NIHON~ハレバレ~」は、谷村にしかできない、まさに美しい「日本の歌」である。このアルバムを引っ提げて〈谷村新司コンサートツアー2015〉が5月9日から始まる。美しい「日本の歌」と〈大人のエンタテインメント〉がコラボレーションした谷村の〈オンリーワンの世界〉、大いに楽しみである。
(文/富澤一誠)