第20回
八神純子が「歌で想いを届けることを決め、ずっと歌う」ことを決断! ジュディ・オングの〈ジャズ・ナイト〉恐るべし!
2016/01/28
たくさんのコンサートが行われているが「このコンサートはぜひ見てみたい」と期待感を持たせてくれるものがある。今年になって初めてそんな期待感を抱かせてくれたのが、1月16日(土)、東京渋谷bunkamuraオーチャードホールで行なわれた〈八神純子 TOUR 2016 There you are〉だった。
このコンサートがなぜ期待感を抱かせたかというと、八神のアーティストとしてのモチベーションが確実に高まっていたからだ。そのことは1月18日リリースのニュー・アルバム「There you are」を聴くとはっきりとわかる。また、彼女と実際に話をして、さらにそのことは私の中で確信となっていったからである。これはどんなことかというと、以下の通りである。
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2011年11月に東京SHIBUYA-AXで約10年ぶりに行なわれたコンサートで、音楽活動を本格的に再始動させた八神純子。そんな彼女にとって〈復帰コンサート〉はそのままアーティストとしてのリハビリ活動も兼ねていた。それは何のために歌うのか?という自分自身に対する問いかけの期間でもあったのだ。彼女は熱く語る。
「2年前に出した前作『Here I am』は、ちょっとひかえめなタイトルでした。それまで10年間お休みしていたんですが “ここに戻ってきました。私はこれから歌います” という意思表示のアルバムで、よかったら聴いてください、ということだったんです」
そして彼女は〈復帰コンサート〉活動を続けるなかで、自分なりの答えを見つけることになる。
「この2年間、ずっとコンサートをやり続けてきたんですが、そんななかで幕が開くたびに思ったことは、お客さんが来てくれて私の歌を聴いてくれているってこと。だから、お客さんが、いた、いた、ということで今回のアルバムは『There you are』と名付け、これまで以上に積極的に歌おうと思ったんです」
リハビリを兼ねたコンサート活動という重要なプロセスの中から生み出された新しいオリジナル曲を集約したニュー・アルバムには現在の彼女がすべて凝縮されている。
私がここにいて(「Here I Am」)、あなたがそこにいて(「There you are」)―。歌でつながることができるから、「歌で想いを届けることを決め、ずっと歌う」という彼女の並々ならぬ決意が伝わってくる。
デビュー38年目、本格復帰して「みずいろの雨」「パープルタウン」などヒット曲を連発していた全盛期をしのぐピークを迎えている八神純子はすごいアーティストである。
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ニュー・アルバムを聴いて、自分のラジオ番組にゲスト出演してもらって実際に話してみた結果、「八神純子は今が旬で期待できる」と判断したからこそ、私は「ぜひ行きたい」と思ったのである。
コンサートはその期待感に違わぬものだった。とにかく、彼女の〈歌で想いを届けたい〉という熱さが全曲にあふれているので、歌がストレートに伝わってきて、メッセージが矢のように飛んできて、瞬時にしてハートを鷲づかみにされてしまうのだ。加えて、アーティストとしてのモチベーションが高いためか、声が良く出ていて歌に説得力があった。
私はデビュー以来、彼女の節目のコンサートはほとんど見ているが、正直に言って、今がアーティストとして最も“旬”なのではないかと思う。もちろん「みずいろの雨」「パープルタウン」など連続ヒットを飛ばしていた全盛期も良かったが、それとはまた違った意味で、彼女は今また新たな全盛期を迎えつつあるようだ。
デビューしてプロになって〈ナンバーワン〉をめざして駆け上がっていくパワーから生み出される歌には勢いがあるが、〈ナンバーワン〉をきわめて、自分だけの独自の世界を確立して〈オンリーワン〉の存在になったとき、アーティストは自分の〈使命〉に気づきそこに人生をかけることによって、歌はさらに大きなものになって〈ライフ・スタイル〉そのものになる。つまり、今の八神にとっては歌そのものが八神純子なのである。
売れる、売れないというレベルを超えて、「歌で想いを届けることを決め、ずっと歌う」ことを決断した彼女だからこそ、その〈決意〉が歌に凝縮されて、歌が最高の状態で生きているのである。その意味で、八神純子から目が離せない。
1月21日(木)、東京駅近くにあるコットンクラブで〈ジュディ・オング バースデーライヴ“Route 66”〉を見た。
ジュディ・オングといえば、「魅せられて」など大人のラブソング〈熟恋歌〉を歌わせたらピカ一の〈熟恋歌の女王〉。そんな彼女がこの日はあえて〈ジャズ〉にチャレンジする〈ジャズ・ナイト〉。
なんでまた?と思ったが、幼い頃から、家にはいつもアメリカン・ミュージックが流れていて、彼女にとってジャズは〈子守唄〉だった、という。特に影響を受けたシンガーはフランク・シナトラ、アンディ・ウィリアムズ、ナット・キング・コールなどで、そんなエピソードをまじえながらゆったりと楽しいステージを見せてくれた。それにしても彼女のステージは和やかでリラックスして聴けて素晴らしい。キャリアを積んだ実力派シンガーという雰囲気で、これぞ大人のエンターテイメントという感じ。
彼女と同世代のシンガーたちにとって“歌手”ならジャズを歌えて当然。そのことは由紀さおり、八代亜紀も話してくれたが、ジャズを歌えるという基礎のうえに立っての“歌謡曲”ということか。
本編の12曲とアンコールの1曲目の計13曲が全てスタンダードのカバーだったが、フィナーレの1曲は「魅せられて」。しかも、孔雀の羽根を広げたあの衣裳、これだけで客席からどよめきと歓声が起きるのを見て、これは完璧な“芸”であり、これぞ“エンターテイメントの極致”だと思った。ジュディ・オング恐るべし、である。
(文/富澤一誠)
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