第34回
三波豊和と西崎緑が織りなす〈歌芝居〉は新しいエンタテインメントである!
2016/08/25
8月22日(月)、原宿のミュージックレストラン「ラ・ドンナ」で〈三波豊和&西崎緑ジョイントライブ〉へ行ってみた。
私は今“大人の音楽”〈Age Free Music〉を提唱している。要は、〈演歌・歌謡曲〉でもない。〈Jポップ〉でもない。大人が聴ける良質な音楽を作りましょうということだが、そんな〈Age Free Music〉の総合プロデューサーとして西崎さんに1枚CDシングルを出してもらうことになったのだ。
シンガー・ソングライターの永井龍雲さんに大人のラブソング〈熟恋歌〉を作曲してもらって大人の歌手に歌ってもらおうと企画したわけだが、この企画が思いの他に上手くいって9月21日に西崎さんのシングル「偽名/哀シテル」(作詞・田久保真見、作曲・永井龍雲)としてリリースされることになったのである。
そんなこともあって西崎さんのライブに顔を出すことになったわけだが、正直言って、はじめのうちはお付き合いのつもりだった。ということで、永井さんの所属事務所キャピタルヴィレッジの荒木伸泰社長と一緒に行くこととなったのである。
〈三波豊和&西崎緑ジョイントライブ〉と聞いて、三波さんと西崎さんとのよくある歌謡ショーかなと思った。
三波さんは20代のときは歌手として活躍されていたし、西崎さんは誰もが知っている大ヒット曲「旅愁」がある。ということは、お互いがヒット曲を歌って、あい間におしゃべりを入れての、よくある歌とトーク満載の歌謡ショーと思ってしまったというわけだ。
ところが、行ってみてびっくりしてしまった。歌謡ショーどころか、歌と本格的なお芝居が入りまじっての素晴しいエンタテインメントだったのだ。
〈第1部〉は「ある幸せの記憶」と題された歌と芝居のコラボレーションで、これは完璧に〈歌芝居〉として成立しているのだ。はっきり言って、単なる歌謡ショーではない。「これは……」と興味をそそられたというわけである。
西崎さんは歌手役の主人公を演じたが、この主人公はなんでこんなに不幸なのと思わせるほどでつい同情してしまうほどだ。結婚当日に相手が消えてしまったり……とにかく幸福寸前まで行って必ず不幸の谷に落ちてしまうようなかわいそうな女性なのだ。
しかし、三波さん演じる心療内科の先生が暴いたのは、そんな不幸な彼女こそ、男を食い物にするとんでもない悪女だったのだ、というどんでん返しの顛末にサスペンスドラマを見たような戦慄を覚えてしまう。
第1部〈歌芝居〉の見どころは、そんなサスペンス・ストーリーの芝居と上手くマッチするかのようにシャンソンやタンゴの名曲が散りばめられているということだ。
「リベルタンゴ」「小さな喫茶店」「ラ・ポエム」「サンジャンの恋人」「小雨降る径」「最後の雨」「ムッシュ・ウィリアム」などの名曲が、ストーリーとお芝居によるコラボレーションで、歌がさらに生き生きとしてくるといったらいいだろうか。芝居と歌がコラボすることで化学反応がおきてまったく新しい世界が生まれるのだ。
歌と芝居が織りなすつづれ織りのような〈歌芝居〉の世界。これだったら大人が十分に楽しむことができるまさに〈大人のエンタテインメント〉である。
〈歌芝居〉は思いの他に面白かった。そう思ったのは私だけではないようだ。その証拠に8月7日、8日の本編だけではなく、8月22日の追加ステージ、23日の再追加ステージが決まったというわけである。
単なる〈歌謡ショー〉ではない、歌と芝居の織りなす〈歌芝居〉で、三波豊和さん、西崎緑さんは共に新境地を切り開いたようだ。帰り際にいただいたチラシには〈西崎緑 歌物語~春告鳥~〉(2017年3月14日ラ・ドンナ)とタイトルがついており、そしてこんなコピーが光っていた。
「自由奔放な芸者と真面目で聡明、控えめな芸者。親友同士の二人が恋をしたり喧嘩をしたりして、友情を深めていく物語です。一人芝居、第二弾、笑いあり、涙ありの物語を歌でつづります。ご期待下さい。」
行ってみよう、そう思わせるに十分なライブだった。
(文/富澤一誠)







