第39回
来年50周年を迎える杉田二郎。来年40周年を迎える永井龍雲。
2016/11/10
11月3日(木)、東京・品川プリンスホテルクラブexで<祝 古希 杉田二郎バースデーコンサート~ジーンズとハーモニカ・やわらかい心に~>を見た。このコンサート、杉田にとっては大きな意味を持つ重要なものだ。
というのは、来年、杉田はデビュー50周年を迎えるので、その橋渡しの意味を持っているからだ。1967年にアマチュア・グループ“ジローズ”を結成した杉田は、翌68年4月5日に「あなただけに」でデビューした。それから早いもので50年ということだが、よくぞ50年間も現役で活動し続けられたものだと感心する。
50周年を目前にして今、杉田はアーティストとして充実しているようだ。その証拠に、杉田二郎が70歳の誕生日(11月2日)にニュー・アルバム「やわらかい心」をリリースした。これは来年デビュー50周年へ向けての記念アルバムだけに彼の熱い想いが込められている。
今年の春頃にテレビで数多く流れていたAC広告がある。交差点で肩と肩がぶつかり険悪なムードになるサラリーマンの男性。ふとそのときに「やわらかいこころをもちましょう」という相田みつをさんの詩を引用した広告が実に印象的だった。この広告を見た杉田はあることを思い出したという。
「あの広告を見たときに、『やわらかい心』という歌を僕も歌っていたなと。で、昔の作品を調べたら、79年に北山修さんと『やわらかい心』という曲を作っていたことを思い出したんです」
「見知らぬ2人が街角ですれ違ったときにどちらかが笑顔を見せたら会話が生まれるというストーリーだったんです。この曲を思い出したとき、『やわらかい心』と再会したなと感じてぜひアルバムに使いたいと思ったんです。なぜか? 70歳を迎えるにあたって、歳をとると頑固になる。だからこそ、できるだけやわらかい心を持って生きられたらいいなと考えたんです」
これを趣旨にして作られたのが今回のアルバムということだが、盟友・北山修、作詞家・松井五郎などと書き下ろした新曲や駿河学(笑福亭鶴瓶)とのコラボレーション作品、これからもずっと歌っていきたい歌たちなど幅の広い12曲が杉田の今の“想い”で収録されている。
そんな中で杉田の現在の心境をリアルに表現しているのが、アルバムのラスト曲として収録されている「あの歌を唄えば」である。作曲だけではなく作詞も杉田が手がけているので彼のメッセージがストレートに伝わってくる。
杉田が50年間もの長きにわたって歌い続けてくることができたのは家族の支えがあったからで、当然ながら家族への感謝がベースになりつつも、これからまだまだ続く自分の人生という階段をどう登るのか? そして我が子から孫へと続くためにできることは、平和への願いなど、そんな様々な思いがこの歌には込められている。
「『あの歌を唄えば』の“あの歌”とは『戦争を知らない子供たち』のことです。家で僕が歌うと孫たちも一緒に歌ってくれるんです。うれしいことです」
去年、安保関連法案が議論され話題になった頃、ひときわ注目されたCFがあった。「通販生活」のCFで、杉田自身が出演をして「戦争を知らない子供たち」を歌ったが、歌い終えた後にこんなテロップが流れるのを見た人もいるだろう。
〈この歌をこれからも歌える国でありますように〉。
安保関連法案が通った現在の日本だからこそこのメッセージがリアリティーを持ってせまってくる。だからこそ、杉田の「あの歌を唄えば」という使命がさらに重くなるのだ。
コンサートを見ていると、杉田のアーティストとしての“使命感”がひしひしと伝わってくるようだった。淡々と話をして歌いながらも、1曲、1曲に、そんな杉田の熱い想いが凝縮されているためか、どの歌も私たち聴き手のハートに入ってきてから、池に小石を投げたときの波紋のようなものが自然と湧いてくるのだ。
杉田の歌が私たちのハートに波紋を起こし、それをきっかけにして私たちもふと考えてしまう。ボブ・ディランではないが、それぞれの答えは“風の中”ではあるが、ふと何かを考えさせてしまう杉田の歌にはなんともいえない味わいがある。この味わいこそが50年間という年月を乗り越えてきたキャリア・アーティストにしか出せない“歌の重み”と言っていいだろう。
第1部は「ジーンズとハーモニカ」に始まり「人生の階段」まで。休憩をはさんで第2部が「マイ・ハート」から「ボクらはきっと知っている」まで。そしてアンコールは「戦争を知らない子供達」をみんなで大合唱した後、ラストは「あの唄を歌えば」という絶妙の流れ。このとき、自分の脳裏のスクリーンに<この歌をこれからも歌える国でありますように>というテロップが流れた人は多いことだろう。
2017年4月22日(土)午後3時から新宿文化センター大ホールで行われる予定の<杉田二郎50周年記念コンサート>、ぜひとも参加したいものである。
「永井龍雲『顧みて』レコ発ライブ!」
11月5日(土)、東京銀座のヤマハホールで<『顧みて』発売記念 永井龍雲デビュー40周年前夜祭>を見た。このコンサートはタイトル通りに龍雲にとっては<レコ発ライブ>になる。
龍雲は9月21日にテイチクエンタテインメント内に設立された新レーベル<Age Free Music>の第1弾アーティストとしてシングル「顧みて/親友への手紙」をリリースした。
ここで<Age Free Music>の説明をしておきたい。
<演歌・歌謡曲>でもない<Jポップ>でもない。良質な“大人の音楽”を<Age Free Music>と私は名づけて提唱している。私の趣旨に賛同いただいたレコード会社16社合同で2009年3月から<Age Free Music 大人の音楽>キャンペーンがレコード業界あげて始まり、キャンペーンは10回続き、それなりの成果をあげた。
これをファースト・ステージとするならば次なるセカンド・ステージは、私はこう考えた。「これがAge Free Musicである」というアーティストを育成すること。キャリア・アーティストの再生及び活性化、そして新人アーティストの育成。かつてヒット曲を出して活躍したものの、今は自分の居場所が見つけられずに忸怩たる思いをしているアーティストがたくさんいる。そんな人たちに場を提供すれば必ずや良質な大人の歌を作ってくれるはずだ。
また隠れた逸材を探し出すことも必要。秋元順子が「愛のままで…」をヒットさせブレイクしたのは60歳を過ぎてから。レーモンド松屋は59歳でデビューという遅咲きにもかかわらずに成功。だったら、アラフォー世代のシンガーに“大人のラブソング(熟恋歌)”を歌ってもらったらニーズはあるはず。
キャンペーンはあくまでもお試し期間だが、私は次なるステージとして実戦の場を必要としていた。そんな私にその場を提供してくださったのがテイチクエンタテインメントで、こうして<Age Free Music>レーベルは立ち上がったのだ。
<Age Free Music>レーベルの総合プロデューサーとして、私は第1弾アーティストとして龍雲を指名。そして龍雲は「顧みて」を作ってくれたというわけである。
龍雲は来年デビューして40周年、還暦を迎える。だからこそ、これまでの人生を顧みたときに、何を思い、そしてこれからどう生きるのか?がテーマとして欠かせなくなる。人生を顧みて、過去を総括しなければ、未来へ自信を持って歩み出せないのではないか。「顧みて」を聴いていると、龍雲の人生は私たちの人生とも重なってくる。顧みて私の人生は?と考えることで勇気が湧いてくる。つまり、この歌は私たちに対する人生応援歌なのだ。
そんな龍雲の熱い想いが凝縮されている今回のコンサートだからこそ伝わってくるものが熱いのだ。ピアノ(エルトン永田)、バイオリン(ツルノリヒロ)、チェロ(Ayako)という編成だけに龍雲の息使いまでが伝わってくる歌たち。今まで以上に歌の表情が豊かになったことで伝わってくるものが熱く感じられた。「これがAge Free Musicだな」と感じる人が多かったと思う。
アンコールが特に良かった。「暖簾」から「顧みて」への流れは絶妙で、永井龍雲の次なる展開が見えた気がした。
新しい地平を切り開きつつある龍雲に期待したい。
(文/富澤一誠)
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