第43回
恐るべし!山下洋輔&岡林信康ライブ!
2017/01/12
〈時代を切り開いたアーティスト達によるジョイントクロスシリーズ第5弾!フォークとジャズのレジェンドが織りなす、独創の世界。〉
と銘うたれたこのジョイント・コンサート、ぜひ見たいと思った。なぜならば〈フリージャズの鬼才〉と〈フォークの神様〉によるジョイント、どうなるのか?想像がつかなかったからだ。
本番の2週間程前、私がパーソナリティーを担当している〈Age Free Music~大人の音楽〉(JFN系全国FM34局ネットプログラム)に山下洋輔にゲスト出演してもらった。そのときに、これまでに共演する機会は何度かあったものの、深い関係になることがなかったという山下と岡林だが、ジョイントの意気込みをこう語ってくれた。
「あの時代に新しいことをやったという認識がお互いにあった」
また、岡林について山下は「すごい表現力で忘れられない、常に気になる存在」と語り、今回のジョイント・コンサートで一緒にやることが決まってからは、すぐに旧知の友人のように話せたと言う。そんな話を聞きながら、ジャズとフォークのレジェンドの2人が織りなす音楽世界はどうなるのか?と期待がふくらむばかりだった。
〈これがフリージャズか?何だ、これは?百聞は一見にしかずの山下洋輔ライブ!〉
正直に言って、山下洋輔のライブをきちんと聴くのは初めてと言ってもいい。もちろんさわり程度はたくさんのアーティストたちが出演するイベントで聴いた事はあるが、30分以上はない。ところが、今回は30分以上聴いてみて、フリージャズのさわりぐらいはわかったような気がした。
これまでフリージャズは難しい、疲れるなどと勝手に思っていたが、そんなことはなかった。生の芝居と同じで始めの頃はなかなかその世界に入り込めなくて苦労するが、しばらく経つとその世界に入れて、が然面白くなってくるのは同じである。
山下のライブもそうだった。あれほど難しいと思っていたものが、余裕が出てくるとメロディーの素晴らしさとか、山下のピアニストとしての幅の広さ、また、他のミュージシャンとのコラボレーションが楽しくて、まさしく〈ミュージシャン・バトル〉から繰り出される独特のワールドはこれぞ山下の真骨頂ということがわかった。
華麗なテクニックに裏打ちされたピアノのヒジ打ち弾き、これができるからこそ山下は〈奇才〉といわれるのだ。
〈フォークの神様恐るべし!岡林信康の弾き語りライブ!〉
山下洋輔スペシャル・カルテットの後は岡林信康のソロライブだった。1曲目はなんと「チューリップのアップリケ」だった。これは岡林の初期を代表する有名なメッセージ・フォークだ。まさか1曲目にこの歌が歌われるとは思ってもいなかった。いや、現在この歌を歌っているのかさえも知らなかった。
1969年3月5日にリリースされたこの歌は、貧しさが原因で離婚して歌の主人公である彼女の前から姿を消した母親に対して「お母ちゃん、早く帰って来て」と切実に訴えかける彼女の心情を見事に表現している。これは「かわいそうな歌」ではなく、「悲しい歌」なのだ。だからこそ、プロテスト・ソング(抵抗の歌)として70年前後にたくさんの人たちのハートを鷲づかみにできたのだ。その頃、この歌を初めて聴いたときの衝撃が蘇ってきた。
続いて「26ばんめの秋」、これは一時期山に引っ込んでしまった岡林が、再び自分を取り戻して復活した時の歌だ。今聴くとこの真意がよけいにわかる気がした。
続いては「橋~“実録”仁義なき寄り合い」で、これは小さな村で起こりえる人間同士のいさかいなどが面白おかしく、なお辛辣にペーソスをまじえて見事なまでに描き切っている。これぞ現代の〈メッセージ・ソング〉でまさに岡林信康、恐るべし!という感じである。
〈第1部・山下洋輔スペシャル・カルテット〉〈第2部・岡林信康ソロライブ〉とくると〈第3部〉は当然のことながら〈山下洋輔・岡林信康でデュオ・ライブ〉となる。
岡林のギター弾き語りに、山下のピアノがどうからんでくるのか?何せフリージャズの鬼才・山下なので、彼のピアノが歌の伴奏になるのか想像がつかない。ところが、現実は岡林の歌と山下のピアノが実に見事にコラボレーションして、全く新しい〈岡林信康の世界〉が生まれたのだ。こういうコラボもあったのか、と私はびっくりしてしまった。
「永遠の翼」「山谷ブルース」「君に捧げるラブソング」「山辺に向いて」がこんなに新鮮に聴こえてくるとは、これがジョイント・コンサートの良さで、コラボレーションの魅力ということだろう。特に「山谷ブルース」に山下のピアノがこれほどまでに合うとはまさに「何だ、これは?」級の驚きだった。
〈ダメ押しの迫力!山下洋輔・岡林信康バンド〉
アンコールは岡林信康、山下洋輔に加えて山下スペシャル・カルテットのミュージシャンが登場してのバンドによる大セッション。
「お祭りマンボ」で盛り上がって、まさかの「自由への長い旅」。この曲は岡林がフォーク・ギターをエレキ・ギターに持ちかえて〈フォーク・ロック〉として再スタートしたときの象徴的な歌だが、自由を求めて長い旅にこれから出るんだ、という強烈なメッセージがあって初めて聴いたときのインパクトは忘れられない。この歌を聴きながら、私たちは未だなお〈自由への長い旅〉の途上にいるのだ、と再確認した。
あるひとつの時代が新しい歌を生み、ひとりのスターを作り出していく。歌はその時代に生きる若者の“バイブル”となり、歌い手は“教祖”となる。かつて“怒れる若者の季節”と呼ばれる時代があった。1960年代後半から70年にかけて、ベトナム反戦、学園紛争、安保反対闘争の嵐が全国を吹き荒れた時代である。
“フォークの神様”と異名を取る岡林信康の歌が生まれたのはこの“季節”の中からであった。
(文/富澤一誠)
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