第69回
〈オンリーワン・アーティスト〉中島みゆき、加山雄三、前川清には独自の魅力がある!
2018/02/08
ナンバーワンで居続けることは不可能である。だとしたら、どうするのか? 答えは〈オンリーワン〉になることだ、と私は思っている。〈ナンバーワン〉から〈オンリーワン〉へ、そうなれたアーティストだけが時代を超え、世代を超えて生涯現役を貫けるのではないだろうか。今回はくしくもそんな3人のキャリア・アーティストのコンサートを見た。
「〈夜会〉のダイジェスト版としての〈夜会工場〉はいい企画!」
1月26日(金)、東京渋谷のオーチャードホールで〈中島みゆき「夜会工場」VOL.2〉を見た。音楽劇ともいうべき、歌と芝居がコラボレートした〈夜会〉は今や中島みゆきの代名詞となっているが、これはまた難解ということでも知られている。私は19話の全てを見ているが、正直言って、どんな内容だったのか? と説明しろと言われてもできない。つまり、それほど難しいということだ。
難しいということは悪くはない。なぜならば、難しいということは聴き手に考えさせるきっかけを与えてくれるからだ。難解な純文学を読むとき、はじめの10ページくらいが入り込めなくてしんどい。演劇もそうだ。導入の15分から30分間ぐらいが苦痛だ。しかし、そこをがまんして乗り越えると一気に視界が開けてくる。〈夜会〉とてそれは同じだろう。
とはいえ、初心者に〈夜会〉はつらい。というわけではないが、〈夜会〉のダイジェスト版ともいうべき〈夜会工場〉が生まれたのかもしれない。〈夜会〉19話の印象的なシーンがダイジェストとして連なっている〈夜会工場〉は、そこに中島みゆきのおしゃべりが案内役としてついている。これがあるからこそ難解のはずの〈夜会〉がぐっと身近に感じられるのだ。
その意味では、〈夜会〉のダイジェスト版としての〈夜会工場〉はいい企画だと思う。そして何よりも、中島みゆきのおしゃべり、歌、芝居の三位一体が完璧に確立しているところが素晴らしい。
「80歳になっても仲間を集めて楽しみながら音楽をやっている加山雄三はすごい!」
翌1月27日(土)、同じオーチャードホールで〈加山雄三 祝!80歳 幸せだなあ。若大将一夜限りの“全箇所”スペシャルライブ ~BIGなスペシャルゲストが駆けつける!?~〉が行なわれた。
中島みゆきとは対象的にこれほどわかりやすくて楽しいコンサートはない。なにせ全てがヒット曲で知らない曲はないと言っても過言ではない。
それにしても「君といつまでも」「夜空の星」「恋は赤いバラ」「夕陽は赤く」「蒼い星くず」「お嫁においで」「夜空を仰いで」「旅人よ」などいったい何曲大ヒット曲があるのか?
今から50年以上も前、まだ誰もシンガー・ソングライターではなかった時代に、加山は自分で作詞、作曲をして、なおかつエレキ・ギターなどの楽器を弾きながらなぜ活躍できたのだろうか?
「小学校の5年ぐらいからピアノを習っていたんです。でたらめに弾いているうちにだんだんと曲になってきて、面白いなあと思ってやっていたら、後ろで親父が聴いていて『いいね』とほめられて、それで本気になって…」
それから仲間を集めて楽しみながら音楽をやっていた、と言う。80歳になっても、この姿勢はまったくかわっていない。そんな加山のステージを見ているとこちらも楽しくなってしまう。80歳になった若大将の“永遠の魅力”はここにあるのではないだろうか。音楽は音を楽しむと書くがまさしくその通りである。
最後にこの日のスペシャルゲストは加山の大ファンだと公言する谷村新司で、幕があいて加山が登場する前に谷村が歌って登場という衝撃のスタートだった。
「ノドの好不調による歌のバラツキも芸のうち。70歳現役歌手のすごさを実感!」
2月6日(火)、東京中野サンプラザホールで〈前川清50周年コンサート アニバーサリー50th 時を忘れて〉を見た。
50周年と聴いて「えっ?そんなに?」とびっくりしてしまった。デビュー曲「長崎は今日も雨だった」を聴いたのは私が確か高校2年か3年のときのことだ。すると1969年頃ということになる。だとしたら、間違いなく50周年ということになる。
それにしても50年が経ってまだ現役の第1線で活躍していることはすごいことである。加山雄三と同じように前川もヒット曲が多い。
内山田洋とクール・ファイブ時代には「長崎は今日も雨だった」に続いて「逢わずに愛して」「愛の旅路を」「噂の女」「愛のいたずら」「女の意地」「恋唄」「そして、神戸」「海鳴り」など今もカラオケで歌い継がれている名曲ばかりだ。
この日、前川は〈第1部〉でメドレーを含めて17曲、〈2部〉で21曲を歌いつくした。クール・ファイブとの共演もあって懐かしかった。
前川はしきりにノドの調子が悪くてすみません、と言っていたが、このくらいのキャリア・アーティストともなると、調子の悪さも芸のうちといってもいいと思う。
確かに調子が悪いときは「あれっ?」と思わせるが、かと言って、調子のいいときは「すごいな」とうならせる力がある。この調子の好不調による、歌のバラツキ、これこそ70歳を迎えた現役歌手の生の姿ではないか?だからこそ、逆にリアリティーとなって私たちに伝わってくるのだろう。
若くはないのだから、昔みたいに歌えなくて当然なのだ。かつて速球で鳴らしたピッチャーが年老いて変化球を投げて打者をかわしていく。カッコ良くはないが、強く生きるということはそういうことなのだ。そんな生き方を前川清はこのコンサートで私たちに教えてくれたようだ。これぞまさしく〈良質な大人の音楽 Age Free Music〉である。
(文/富澤一誠)
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