第71回
本人が出ない異色のコンサート〈中島みゆきリスペクトライブ2018 歌縁(うたえにし)〉
2018/03/08
そんなふうに思わせる〈異色〉のコンサートを見た。
3月3日、日本武道館で〈中島みゆきリスペクトライブ2018 歌縁(うたえにし)〉が行なわれた。ふつう〈リスペクトライブ〉や〈トリビュート・ライブ〉は本人がホスト役を務めてゲスト出演者と共演するというスタイルがほとんどだが、今回はまったく違っていた。
しかし、こんな〈奇妙〉なコンサートに8000人もの聴衆が集まってしまうから不思議である。しかも、このコンサートは全国9都市をまわるツアーになっているというからびっくりだ。
「ゲスト歌手9組によるカバーの競演! どう独自色を出すのか?」
内容は中島みゆきを敬愛してやまない新妻聖子、中村中、半崎美子、平原綾香、クミコ、高畑淳子、島津亜矢、研ナオコなどによる中島みゆき〈名曲集〉のカバー競演である。
中島みゆきの作品は個性が強いのでどうしてもその世界に引きづり込まれてしまいみゆきに似てしまう。そこをいかに頑張って自分の色に染めるのか、カバーのポイントはそこにある。つまり、中島みゆき自身が描いた〈油絵〉をいったんはぎとって、素のままのデッサンにどの手法でどんな絵を描くのか、という戦いが歌う方には要求されるのだ。
「新妻聖子、中村中、半崎美子、平原綾香、クミコ、高畑淳子、島津亜矢、研ナオコ。みんなすごい!」
1組が3曲程歌ったが、新妻聖子はミュージカルで鍛えた圧倒的な歌謡力で「糸」をスケールの大きな歌に作り上げていた。内にこもりがちなみゆき作品を外に開放したのはさすがである。
中村中はみゆきの〈夜会〉に出て、その演技力、歌唱力には定評があるが、彼女独自の〈芝居歌〉ともいうべき独自の世界はここでもキラリと光っていた。特に「狼になりたい」はその本質がさらにデフォルメされていて圧倒的な迫力だった。
〈半崎美子〉は癒し系の歌い手なので、みゆきの毒と合うのかなと思ったが、実はこのミスマッチこそが奇妙な化学反応を起こして「帰省」はまったく新しい歌に生まれ変わっていた。飲み易い清涼飲料水だが後でじわりと味わい深さがしみてくる。そんな感じだった。
平原綾香は圧倒的な歌唱力に加えて華がある。だから、彼女が歌うとみゆきの歌が立体的に聴こえてくるから不思議である。みゆきという毒と平原という華がハイブリットするとまったく別の世界が生まれるということだ。
クミコはシャンソン出身なので、シャンソンとみゆきの作品は水と油かなと思ったが、そんなことはなかった。クミコが歌うことでみゆき作品の演劇性がさらにデフォルメされるためかよりリアリティーが増すようだ。大合唱団付きの「世情」は圧巻の迫力だった。
高畑淳子は大女優だが歌を聴いたことがなかったので、大丈夫かなと思ったがあの力作「ファイト!」を歌いこなしてしまう地力には感服した。それと「化粧」の朗読、これは役者だからできること、いいものを見させてもらった。
島津亜矢は演歌歌手だが、実は洋楽やJポップを歌わせても群を抜いている。そんな彼女だからこそみゆき作品を歌うとまた違った歌の地平が見えてくる。「誕生」が亜矢の歌にかかるとこんなに変わるのか? というところが興味深かった。
(文/富澤一誠)