第72回
“吟情歌”という新しいジャンルを切り開いた多田周子に注目!
2018/03/22
「クラシックから童謡、唱歌に転向?」
多田周子はもともとは声楽の歌手だった。しかし、声楽から“”日本の歌”に転向した。そのきっかけは、音大卒業後、オーストリアのモーツァルテウム音楽院で博士号取得をめざしていた時のことだった。
「何度歌っても教授は『No!』。どうしていいのかわからなくなった時に助教授が、『周子の故郷の歌を歌ってみたら』と助け舟。それで“赤とんぼ”を歌ったら“ジャパニーズ・ミラクル”と褒められたんです」
ドイツ語ではなく日本語で歌ったときに初めて日本人としての感性が花開いたのだろう。以来、彼女は日本人であることを再認識して、帰国後はクラシックではなく、童謡、唱歌など“日本の歌”にこだわって歌うようになる。
その成果が彼女にとってのファースト・アルバム「花月夜 ~風がはじまる場所~」だった。このアルバムを聴いてシンパシーを感じた私は、このアルバムの帯に『多田周子「花月夜」は私が求めていた大人のための良質音楽〈Age Free Music〉です』という推薦文を寄せたというわけだ。
「“大人の歌”にチャレンジし続けて得たものは?」
早いものであれからもう7年という年月が経ってしまったが、彼女は着実に歩んできたようだ。そのことは3月14日(水)、東京銀座のヤマハホールで行なわれた〈季節の針を少しだけ、早送り…Early Spring Concert Syuko Tada〉を見て聴いてよくわかった。
クラシックからスタートした多田が“日本の歌”にこだわって童謡、唱歌に活路を見い出し、さらに秋元順子が歌ってヒットした「愛のままで…」の作曲家・花岡優平と組んで「風のクロニクル」(作詞・門谷憲二)という良質な“大人の音楽”にチャレンジしたということは特筆される。
今回のコンサートはそんな多田の歌手人生が的確に凝縮されていて味わい深いものがあった。彼女にとって“日本の歌”へのチャレンジは歌手・多田周子にとって確実に実になっているということだろう。これまでは気まじめすぎるのか、どこか歌の表情が固かったが、今回はなぜか歌の表情が豊かになったのか包容力があって説得力も増してきたようだ。「これならいける」と感じたのは私だけではないだろう。
「歌のマイナス・イオンが疲れた心を癒してくれる!」
「ふるさと」「赤とんぼ」など誰もが知っている“叙情歌”を、“清酒”が長い年月を経て熟成されて“吟醸酒”に生まれかわるように、多田周子というフィルターを通すことで、人生という長い熟成期間を経て“吟情歌”という“大人の歌”に生まれ変わらせることができるのだ。その意味では、彼女が歌う大人のための新しい〈日本のうた〉が紛れもなく時代が求めている〈吟情歌〉なのだ。
彼女の〈吟情歌〉がさらに進化したようだ。彼女の〈吟情歌〉を聴いていると、全身に〈歌のマイナス・イオン〉を浴びて疲れた心が癒されて解放される。シャワーを浴びて心も体もリフレッシュして、また明日への活力を取り戻す。そんな“心のビタミン剤”が私たちに一番必要なもの。多田周子の〈日本のうた〉は〈歌のマイナス・イオン〉を生み出す〈心のシャワー〉そのものなのだ。
(文/富澤一誠)