第19回
〈細坪基佳 Nature of Year 2016〉 こんなに泣きたいくらい楽しいコンサート、私は今までに見たことがない!
2016/01/14
〈演歌・歌謡曲〉でもない。〈Jポップ〉でもない。良質な大人の音楽を〈Age Free Music〉と名づけて私は提唱している。言ってみれば、〈Age Free Music〉とは、今私が聴きたいと思っている〈大人の歌〉ということである。
そんな想いを持って私はジャンルに関係なく、私が共感できるような〈Age Free Music〉を捜している。今年は特にそのことに徹したいと思っている。そんなこともあってか、2016年、今年初めのコンサートに選んで行ったのは、1月9日(土)、東京・大井町のきゅりあん大ホールで行なわれた〈細坪基佳 Nature of Year 2016〉なるコンサートだった。
このコンサート、毎年恒例で行なわれるもので、早くも23回目を迎えた。例年この時期に行なわれており、言ってみれば細坪基佳の「今年はこんなことをするぞ!」という〈所信表明コンサート〉みたいなものだ。
たっぷり3時間、しゃべって、歌って、楽しませてくれた。3時間という長い時間を感じさせない、ということは、それだけエンタテインメントとして完成しているということである。
細坪基佳がフォーク・デュオ・グループ〈ふきのとう〉のボーカリストとしてデビューしたのが1974年9月21日のことで、記念すべきデビュー曲は「白い冬」。早いもので、あれからもう41年が経ち、今年から42年目に入っている。この40余年、細坪は現役の第一線で活動してきた。一口に40年というが、これは並大抵のことではない。40年間、現役で、しかも第一線で活動ができたということは、それにふさわしい実績と人気があった、ということだ。
ふきのとうのデビューから今年で42年目、92年にふきのとうが解散して、ソロ・シンガーとして再スタートしてからでも今年で24年目を迎える。細坪のすごいところは、今年64歳になるが、それでもまだ現役の第一線アーティストとしての“のびしろ”があるということだ。
きゅりあん大ホールは1100人が収客可能で、今でもこのホールを満席にしてしまう細坪。彼にとっては、誰もが知っているヒット曲は、ふきのとう時代の「白い冬」しかない。言ってみれば、「白い冬」たった1曲だけで40年間やっていけているということだが、これはほとんど奇跡に近いと言っていい。
なぜ彼は40年間も現役の第一線で活動できているのか? そんなことを考えながら、このコンサートを楽しんでいて、私は合点のいくところがあった。それは一般的にいうヒット曲は、「白い冬」たった1曲かもしれないが、彼のファンにとって、それぞれが自分にとってのマイ・ベスト曲を何曲も持っているということだ。当日は本編が19曲、アンコールが3曲の計22曲を歌ったが、どの曲もが彼のファンにとってはなくてはならない、いうなら〈マイ・ヒット曲〉なのだ。
しかも、細坪のおしゃべりが“人生”を反映しており、おしゃべりと歌がワンセットになっていて、これはもう“芸”と言ってもいいのではないか、というレベルの高さである。特に、細坪のお母さんの話を面白おかしく話してから「追想」という歌へ流れていくあたりは、あたかも短い芝居を見ているかのようでぐっと共感を覚えてしまう。
同じように、杉田二郎をネタにしてのショート・ストーリーから「LOVE SONG」への流れ、それからパソコン(アップル)をネタにからめてのショート・コントから「風来坊」へと向かう道筋は、これはもう見事としか言いようがない。つまり、細坪のコンサートは、音楽を中心にしたおしゃべりと素晴らしい演奏がコラボレーションした〈ミュージック・エンタテインメント〉なのである。
3時間の長丁場だったが、まだ聴きたい、見たい、と思わせる、ということはそれだけの濃い内容があるということだ。こんなに泣きたいくらい楽しいコンサート、私は今までに見たことがない。
(文/富澤一誠)