第47回
「西崎緑の〈一人歌芝居〉」、由紀さおり・安田祥子の〈童謡コンサート〉は新しい地平を切り開くすごい作品である!」
2017/03/09
〈歌芝居〉のフロンティアは中島みゆきの〈夜会〉だろうか?歌のコンサートでもあるし、芝居というか演劇でもあるし、また逆にそのどちらでもないという、まさに〈夜会〉と呼ぶしかない彼女の独自の世界である。つまり、それだけオリジナリティーがあるということだ。
そんな〈夜会〉に触発されたのか、歌と芝居を融合させた〈歌芝居〉にチャレンジしているアーティストは多いようだ。そんな中で私が注目しているのは歌手の西崎緑である。
彼女は去年〈問わず語り〉と題して、一人芝居仕立ての語りと懐かしい昭和の歌謡曲を盛りこんだ〈一人芝居〉第一弾を行なって好評を得た。そんなこともあってか、彼女が〈一人芝居〉第2弾〈歌物語~春告鳥~〉を行なうというので、3月4日(土)、原宿のミュージック・レストラン“ラ・ドンナ”に行ってみた。
「西崎緑の一人芝居〈歌物語~春告鳥~〉は歌と芝居の見事なコラボレーション作品である!」
ステージはきわめてシンプルだった。ギタリストの森正明とピアノの宇戸秀俊がいるだけ。そして西崎緑がたったひとりで歌い、なおかつたったひとりで何人かのセリフをしゃべりまくる。まさに〈一人芝居〉というか〈一人歌芝居〉である。
ストーリーは、宮坂にある倉本という老舗置屋の養女、姉の春、妹の花が苦労しながら芸伎に育っていくさまを描いた人生ストーリーである。
ふつうストーリーができあがり、そのストーリーにそった歌が作られるものだが、この〈歌物語~春告鳥~〉は違っている。まずはじめに選曲ありきで、その選曲にそって、さとうしょうが脚本を書いていったらしい。
選曲は「春よ来い/松任谷由実」「雪の華/中島美嘉」「神田川/かぐや姫」「糸/中島みゆき」などお馴染みのカバー曲と「哀シテル」「偽名」など西崎のオリジナル曲。これらの歌が実に上手く人生ストーリーのために作られたオリジナル曲のように配列されている。つまり、それだけ歌とストーリーがぴったりとはまっているということである。
西崎はたったひとりで語り、そして歌ったが、それはもう見事な“芸”となっていた。西崎緑の一人芝居仕立ての〈一人歌芝居〉、これは新しい地平を切り開くことができる武器になる、と私は考えている。さらに精進してひとつのジャンルとして確立して欲しいものだ。
最後に付け加えておこう。歌、芝居に加えて、彼女には西崎流の踊りもある。その意味では〈一人歌・踊り・芝居〉と言っていい。まだ見ていない人はぜひ自分の目で見、耳で聴き、そして心で感じて欲しいものだ。
「由紀さおり・安田祥子の〈童謡コンサート〉は日本人の心の故郷である!」
3月6日(月)、東京赤坂のTBS赤坂ACTシアターで〈由紀さおり・安田祥子ファミリーコンサート 30周年記念~両手いっぱいの歌~〉を見た。
由紀さおり・安田祥子姉妹が〈童謡コンサート〉を始めたのは1986年3月、有楽町の朝日ホールで、今から30年前のことである。このコンサートが生まれたきっかけは以下の通りである。
〈このコンサートが生まれたきっかけは、亡き母の想いと、「今年も教科書から消えてゆく懐かしい小学唱歌」「子供たちが歌わなくなった童謡」という新聞記事でした。
由紀・安田姉妹の〈童謡コンサート〉の評判は聞いていたが、なぜか見に行く機会がなかった。もちろん、ゲスト出演などでは見たことはあったが、きちんとコンサートをフルで見ることはなかった。ということで、いつかフルで見てみたいものだと思っていた。そのチャンスが今回初めてやってきたというわけだ。
〈童謡・唱歌〉というと、幼少の頃に聴いた〈子供の歌〉というイメージが強かったが、由紀・安田姉妹の歌で聴くと、何よりも音楽の楽しさが蘇ってきた。考えてみれば子供の頃は、友だちと学校の休み時間及び登下校のときに一緒に歌っていたものだ。そのときはまるで流行歌のように親しみを感じていたように思う。一緒に歌いながら“あの頃”にタイムスリップしている自分を発見して心が和んでいくのが感じられた。
〈童謡・唱歌〉によって、心の中で凍っていた“氷河”が溶けたような気がした。心が素直になれて癒されたのだ。故郷の自然の中で思い切り自由に飛びはねていた自分の“原風景”が自然と脳裏のスクリーンに映し出されてきた。そのとき「これだったのか?」と思った。〈童謡・唱歌〉は私たちにとって〈心の故郷〉だったのだ。
東日本大震災以降、故郷志向が強まっているようだ。大切な故郷が消えてしまうのを見て誰もが自分の大切なものを考えたはずだ。そんな大切なものは故郷にこそある。だからこそ〈心の故郷〉を歌った〈童謡・唱歌〉が今、必要とされているのだ。
「みかんの花咲く丘」「早春賦」「おぼろ月夜」「ぞうさん」「雨降りお月~雲の蔭」「大きな古時計」などを久しぶりに聴き、そして口ずさんでいると、少年の頃に出会ったような気がした。あの頃の自分が今の自分に「元気でやっているか?」「幸せでいるか?」と問いかけてくるようだ。
由紀・安田姉妹の〈童謡コンサート〉は紛れもなく、私たちにとって〈人生のビタミン剤〉である。最新アルバム「両手いっぱいの歌~Anniversary 30th」(2枚組)をサプリメントがわりにして今日から毎日聴くことにするつもりだ。
(文/富澤一誠)
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