第57回
音楽ファン必見の〈Beautiful The Carole King Musical〉!
2017/08/10
しかし、これは一朝一夕にしてなったのではない。そんな彼女の半生をテーマにミュージカル化されたのが〈Beautiful The Carole King Musical〉(以下〈ビューティフル〉)である。〈ビューティフル〉はブロードウェイで幕を開けるや大評判となり、2014年には演劇界最高峰のトニー賞主演女優賞をはじめ、グラミー賞、オリヴィエ賞なども受賞してまたたくまに人気ミュージカルとなった。
「平原綾香、水樹奈々の豪華Wキャストが実現!」
人気ミュージカル〈ビューティフル〉が日本で初めて上演されるというニュースを聴いたとき、誰がキャロル・キングの役をやるのだろうか?とまず思った。なぜなら、どう考えてもキャロル・キング役でこの〈ビューティフル〉は決まってしまうと思ったからだ。
それはそうだろう。キャロル・キング役をやろうとするならば、何よりも歌が上手くなければならない。そのためにはかなりの実力派アーティストでなければ話にならない。しかし、歌が上手くて、役もこなせる実力派アーティストなど本当にいるのだろうか?というのが私の本音だった。
そんなふうに思っていたときに、キャロル・キング役は平原綾香と水樹奈々のWキャストというニュースが飛び込んできた。「平原綾香か?」と聞き、「悪くはないな」と思った。というのは、平原なら歌の実力は申し分ないと判断したからだ。しかもミュージカルの経験もあるので、が然興味が湧いてきた。一方、水樹奈々に関しては私の彼女に対する情報が少なくて判断がつかなかった。
「キャロル・キング役の平原綾香の歌が圧倒的に良かった!」
8月3日(木)、東京・帝国劇場で〈ビューティフル〉を見た。キャロル・キングのサクセス・ストーリーだが、そこに至るまでの心の葛藤がわかり易く描かれていて見どころがあった。
内容は、ニューヨークに住むキャロル・キング(平原綾香)は音楽教師になるように勧める母親のジーニ(剣幸)を振り切って、ポップスの作曲家をめざして、実力プロデューサーのドニー・カーシュナー(武田真治)に曲の売り込みを始める。その頃、同じカレッジに通うジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)と出会って恋に落ち、同時に作詞家をめざす彼と“作詞・作曲”のコンビを組む。
売れっ子作詞・作曲家になった彼らには友人であり良きライバルでもあったバリー・マン(中川晃教、作曲家)、シンシア・ワイル(ソニン、作詞家)というコンビがいた。彼らと競い合った中から自然と名曲は生まれてきたというわけである。この辺のストーリーはなかなか感動させるものがある。
しかしながら、強烈な光を放てば放つほど影も深く濃くなるものだ。やがてキャロル・キングとジェリー・ゴフィンの間にも闇が訪れる。売れる曲を作り続けなければならないというプレッシャーに押しつぶされたゴフィンは精神的に追いつめられた結果、奇怪な行動や、はたまた浮気を繰り返すようになり、それはやがてキャロル・キングをも追いつめることになる。
加えて、ミュージック・シーンも大きな変革期を迎えていた。ビートルズやローリング・ストーンズなどのバンドの台頭や、ボブ・ディランなど新しいミュージシャンの台頭で、キャロル・キングたちが作り出してきたアメリカン・ポップスは過去の遺物となりつつあったのだ。
作詞作曲家が歌手のために曲を書いて提供するというスタイルから、ミュージック・シーンは自作自演、つまり、作詞・作曲をして自ら歌うという〈シンガー・ソングライターの時代〉になろうとしていた。そんな中で、キャロル・キングの立ち位置は?
「シンガー・ソングライター“キャロル・キング”の誕生!」
キャロル・キングのこのあたりの心の葛藤は演じどころだが、平原は見事にこなしていたと言っていい。歌の上手さは当然だが、このあたりの演技がキラリと光っていたからこそ、自分のために詞、曲を書き、そして自分で歌うというクライマックス・シーンでの歌が見事に映えた、と言える。
代表曲「イッツ・トゥー・レイト」「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」などは圧巻だった。これらの曲はたくさんのシンガーたちにカバーされているが、平原綾香の歌は圧巻だった。湯川れい子の日本語詞も冴えていて、これぞ平原の“オリジナル作品”と言っていい程のできあがりだった。
キャロル・キングというスーパースターの心の葛藤を見事に演じ歌い切った平原綾香は間違いなく、新しい地平を切り開いたようである。帝国劇場での公演は8月26日まで。ぜひ見てほしいものだ。ちなみに、私は8月25日に水樹奈々公演を見るつもりである。
(文/富澤一誠)
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