第60回
従来の〈聴かせる歌姫〉の女王に、ファッションで見せる新しい女王が加わった西野カナのドームツアー!
2017/09/28
「何で西野カナがドームツアーな訳?」
9月23日(土)、東京ドームで西野カナの〈Kana Nishino Dome Tour 2017 “Many Thanks”〉を見た。
西野カナが〈ドーム・ツアー〉をやると聞いたとき、正直言って「何で西野カナがドーム・ツアーな訳?」と思った。なぜならば、西野カナの歌は〈ドームツアー〉とはまったく対極にあると思っていたからだ。
東京ドームにふさわしいアーティストといえば安室奈美恵、浜崎あゆみとかダンス・ミュージック系のテンポが速くて見せるエンタティナーがいいと勝手に思っている。なにせ東京ドームは5万人を収容できる大きなスペースなので、とにかくノリが良くてハデさがないとパッとしないからだ。
それに対して西野カナの場合は、歌って踊って見せるというよりは、歌でじっくりと聴かせるタイプだ。しかも、彼女の詞は等身大のリアリティーを持っているので、「これは私のことを歌っている」と錯覚するほどの親近感があるので“共感”することができるのだ。
「華やかなエンタティナーぶりに目を見張るものがあった!」
ところが“聴かせる歌”の歌姫が東京ドームを見事に支配してしまったのだ。なぜかというと、通常のコンサートのようにしっかりと歌を聴かせたうえで、観客とのやりとりというか、コミュニケーションもドームなりにしっかりと取っていたからだ。
そして、ここに付け加えて、華やかなエンタティナーぶりにも目を見張るものがあった。浜崎や安室に匹敵するような“華”が彼女にはあったのである。その“華”とはきらびやかで華やかな衣装のまさしく〈13変化〉ともいうべきファッションである。早着替えもこなし、完璧にモデルとしても一級品であり、また、ファッションが身に付いていた。
つまり、結論から言うと、従来の〈聴かせる歌姫〉の女王に、ファッションで見せる新しい女王が加わったということだ。“聴かせる女王”の中島みゆきと“見せる女王”の松任谷由実がコラボレートしたとはいささか言いすぎだが、ま、デフォルメして言うと、そんなことである。
本編のラストが彼女の「トリセツ」というのが良かった。これぞ“聴かせる歌”の真髄だからだ。そしてアンコールで歌った新曲「手をつなぐ理由」も“聴かせる歌”で良かった。こういう名曲を生み出せるかぎり西野カナはまだまだいけるだろう。
(文/富澤一誠)